有期労働者への差別・選別への道を開く改正・労働契約法

2012,7,17

有期労働契約に関する労働契約法改正案が国会に上程され、採決が目前に迫っています。一昨年(2010年)9月厚労省有期労働契約研究会最終報告を受け、10月より労働政策審議会・労働条件分科会が開始され、82回から100回まで、震災での中断を挟み、最後は審議を加速強行して法案が決定されました。
私たち東大職連は、国際労働基準(ILO158号条約等)である無期原則確立、有期雇用原則禁止と、さらに国公立大学法人化を契機に大規模に導入された有期雇用の更新上限の廃止を目指してきました。日本における有期雇用を定める法規が、「年季奉公を禁止する法」を意味した労基法14条から、規制緩和を繰り返しつつ、現代の奴隷労働ともいうべき有期労働者の差別促進へと変更されてきた経過を明らかにし、分科会傍聴・監視を呼びかけ、ホームページ上でも法制化審議過程を監視してきました。研究会の最終報告自体、脱法行為である有期雇用の雇用更新上限設定の横行を指摘しつつも、有期雇用を前提としその「有効活用」=有期差別の合法化、雇用更新上限5年の制度化の方向を含むものでした。使用者側(経団連)、労働者側(連合)、公益側(大学教員)、事務局(厚労省官僚)で構成される分科会は、当の有期雇用労働者の出席はもとより一切意見を聴取する機会も作らず審議が進められ、最終的には審議を一気に加速して、建議・要綱の答申という結論に至りました。
厚労省が国会に上程した「5年で無期転換」導入をセールスポイントとする改正法案は、大学等で先行してきた教職員、非常勤職員への差別・選別システムを、全国の労働者・有期雇用労働者に拡大・制度化するものといわねばなりません。
まず審議過程を簡単に確認するとともに、この法案が、すでに全労働者の1/3を超え、しかも年収等の条件が年々悪化を続ける多数の非正規・有期雇用労働者に対し、現場で進行してきた差別・選別・切り捨てを制度化しようとするものに他ならないことを明らかにしていきます。

1.審議会、労働条件分科会の推移

1)「入口規制」対立からの転換準備(2011年夏)

一昨年から昨年(2010年〜2011年)にかけ,震災での中断を挟んで進められた前半の審議で、労働側は有期労働契約には「合理的な理由が必要」として「入口規制」を強調し、「入口」「出口」は切り離せないものとしてきました。使用側は入口規制を「脊髄が拒否する」として真っ向から反対してきました。
昨年夏、前半の議論を整理した事務局作成の「有期労働契約に関する議論の中間的整理について」(素案)に対し、第90回分科会(7月21日)では主に使用側が審議の全体を反映していないと反発して紛糾し、結局、分科会長に一任、事務局が「汗をかく」として、8月3日付で「有期労働契約に関する議論の中間的整理について」(中間総括)の公表となりました。
中間総括では「雇い止め後のクーリング期間の件」、「有期雇用の均等・均衡処遇の変更は正社員の処遇にも関係するとするもの」が追加され、「クーリング期間」の再浮上は、最終案作成へ向けた布石であったようです。また、有期雇用の差別問題が正社員の選別と関連させる議論が俎上に上がり、審議後半へ枠組み,レールが設定されました。

2)公益側の出口規制誘導と労働側の入口規制放棄(2011年秋)

9月、厚労省は、東日本大震災被災3県を除き、有期労働者の2/3以上が200万円以下の年収であること等、有期雇用労働者の実態調査の「結果」を公表しました。その内容は2年前の調査よりさらに有期雇用者の待遇が悪化していることを明確にしています。
10月この調査報告を分科会へ報告すると同時に、にわかに審議は本格化し、労働側はこれまでの「無期原則」に関連し、7項目の除外項目を挙げて無期原則の条件化を臭わせ始めました。さらに事務局は、「有期労働契約のあり方に関する論点(案)」として 1、有期労働契約の締結への対応 2、有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応 3、不合理な「雇止め」への対応 4,「期間の定め」を理由とする不合理な処遇の解消 5、その他必要な手続き的ルールの明確化、の5点を今後の議論のテーマとして提示しました。
使用側はこれに強く反発の姿勢を示しつつ、「論点」に沿った審議に積極的に対応し、労働側の無期原則の条件化に即応する姿勢に転じたのです。
かくて、審議後半の焦点は、論点1(入口規制)論点2(出口規制)をセットで切り離せないとしてきた労働側が、論点1・2を切り離すことを「決意」した点にあります。実は、ここには「公益委員」の「功績」があったのです。
「公益側」の労働法学者(東大教員、荒木副会長)はヨーロッパの実情を紹介するとして、ドイツでは雇用確保のため「入口規制」から「出口規制」へ傾斜しているとし、さらに岩村会長(労働法学者・東大教員)も「フランスでも同様」であるとし、あたかも有期雇用の規制緩和が世界の趨勢であり、「入口規制」は長期的な「雇用縮小効果」をもたらし、「出口規制」は濫用を規制するもので「安定雇用」の効果が期待できると、露骨な誘導を行いました。労働側はこの発言に呼応して「意見を重く受けとめる」とし、入口規制の断念を表明したのです。
使用側は、この労働側の変身を「ばら売り」とからかいながら、更に有期の「無期化」「均衡・均等処遇」に関連し、「多様な正社員」(正規への選別導入)を提起し、労働側の無期化転換要請に対する対抗策を対置しました。
このように「入口規制」を除去した審議は、「5年で無期への転換可」とし、解雇期間(クーリング期間)設定が議題の中心となったわけです。契約利用期間の設定でみても、「5年」というのは、国際的にも異例の長い「利用可能期間(オランダ3年、フランス1年半、ドイツ2年、韓国2年)」は、「労働側が3〜5年とし、使用者側は7〜10年を主張、間をとり5年に」となっており、「5年」の設定に特別に意図があるというべきでしょう。
かつて有期雇用契約期間を例外5年とした労基法14条改定には、大学等での「教員任期法」の5年とのバランスを取ったといわれてきましたが、今回の5年もこれとの関連で持ち出されたものといわねばならないでしょう。

3)差別・選別制度として「テニュアトラック制」を用意する有期法制

今回の法制化案を「5年を試用期間」とした「テニュア(トラック)制度」として積極的「活用」を示唆する提言が出されています。「5年を超えた時点で無条件に正社員にするのではなく、5年を正社員化に向けたチャレンジ期間として積極的に位置付ける」「契約期間の最後で使用者は正社員に転換させて引き続き雇用するか、雇い止めを行うかという選択を行う。有期雇用で継続雇用ができないようにすることで有期雇用の濫用を防ぐという仕組みとなる。これは5年間の有期雇用を試用期間とみなすテニュア制度とみなすことができる。」(RIETI鶴上席研究員)   テニュアは後述するように大学等の高等教育機関における教員の終身雇用資格であり、「テニュアトラック」はそれに向けたコースに選別採用された期限付き雇用の教員です。つまり、無期と差別された有期労働者から無期労働者への転換を、教授等の特権的身分獲得と同様のものとして扱うという提言です。今回の法制化によって、最低限の生活水準の非正規有期雇用労働者の中に差別・選別の制度を導入しようというものです。(RIETIの提案は5年後の無期化されなかった労働者は有期雇用さえ切り捨てるという残酷な提案です。)

2.ますます進行する有期雇用労働者の貧困化と差別の拡大

1)有期労働者の貧困化と無権利の拡大

先述のように、厚労省の調査では、有期雇用の74%が年収200万円以下となり、しかも有期雇用労働者の年収200万円以下が、この2年間で57.3%から72.9%(100万円以下が40.7%)へ急上昇。有期雇用1700万人の内約1200万人余が年200万円(月収16万余)以下の収入になったとしています。有期雇用の労働者は、すでに生活保護の収入レベル(月13.6万円+医療費・保険:単身・東京)以下になっているのです。
有期・非正規労働者は、個々に分断され、日々差別される目に会い、とりわけ雇用更新されない不安にいつも脅かされながら、「労働基本権」も「ないに等しい」状態に置かれ続けてきました。賃金等の待遇を巡って争うことはおろか、雇止め解雇が通告されても、これらを規制する法律は存在しないとして、監督官庁や裁判所からも「門前払い」されるのが通例でした。

2)パート労働法と新契約法の「差別」禁止条項

パート労働法ではパート労働者と正規の労働者の差別処遇を禁止しました。しかし、その第8条では「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者(職務や人材活用の仕組みや運用が同じ。実質的に無期契約であることの3要件が必要)」への差別的取り扱いを禁止しただけで、実際これに該当するパートは全体の0.1%〜1%で、ほんの一部のパートを除けば全く関係ないのです。
パート労働者の正規労働者との差別禁止も今回の労働条件分科会の課題でした。EUパートタイム労働指令では「比較可能なフルタイム労働者との間での不利益取り扱い禁止」としています。今回の有期法制化と平行して審議が進められてきた厚労省「雇用均等分科会」では、この3要件の中の「無期労働契約要件」の削除が提起され、有期パートに対する差別が解消する端緒が開かれたかと思われました。しかし、今回の新契約法20条は、従事している労働が「職務や人材活用の仕組みや運用が同じ」であることを、労働者が提起し証明しなければならないというのです。絶望的な立場には一向に変わりはありません。

3.改正法案による選別・差別の制度化

1)無期労働者と有期労働者の絶対的な差別、労働契約法16条、17条

労契法16条において無期労働者については解雇権濫用法理が規定されていますが、17条1項では有期労働者の雇用期間のみの解雇制限が規定されています。17条2項では必要以上に短い期間を定めることのないよう配慮しなければならないとしていますが、現実は雇用期間の細切れ化が進行し、また17条の存在にもかかわらず、契約期間途中の解雇(中途切り)もまかり通っているのです。

2)新たな第18条、20条の改正法案、差別の補完、選別機能の強化

(1)18条、(有期労働契約の更新等)
有期労働者が期間満了前あるいは満了後遅滞なく更新申込みをした場合「使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」
「雇止め法理の成文化」と称される条項になりますが、これが適用される前提条件は、その雇止めが無期労働者の解雇と社会通念上同視できる労働者であること、あるいは更新の期待をすることについて合理的な理由があると認められる場合に限るとするものです(東芝柳町、日立メディコ判例の条文化)。使用者側が期間満了前にあらかじめ「期待権」を奪い、この前提条件を成り立たないようにしようとすることへの「防止策」は何処にも示されていません。

(2)18条、(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
通算期間5年を超える労働者が自ら申し込みをしたとき、有期のときの労働条件のままで無期に転換するとしています。(更に「別段の定め」で格差を拡大することもある!)この条項は、法施行後5年後に初めて実際の転換が可能になるというものであり、使用者は遙か先、5年間の「試用期間」後、「役立つ労働者」を無期化するという代物です。他方で満期前に予め次の契約更新がないことを通告し、無期化の申し出をさせずに切り捨てることについても、やはり「防止策」は具体化されませんでした。あるいは有期のままに使用したければ、6ヵ月の「空白期間」(「クーリング期間」すなわち解雇期間)を経て再度有期雇用すればよいというものであり、5年間後の無期化の義務を免れることが出来るという、使用側にとっては何とも「使い勝手の良い」制度というわけです。

(3)20条、(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働者の労働条件が、同一使用者のもとで無期労働者との待遇比較をした場合、「不合理と認められるものであってはならない」とするもので、いわゆる「均衡、均等待遇」です。しかし厚労省の説明では裁判等での不合理の「立証責任は労働者側にある」とされ、有期労働者の発言困難性、裁判の困難性(圧倒的な力関係の差、情報量、文書、職場の人間関係等)からして、実際は、大部分の有期労働者には、こうした裁判で勝利することはほとんど不可能というしかありません。

4.大学での差別・選別制度の先行・拡大

1)大学等教育機関での「任期法」「テニュアトラック制」の強行実施

有期法制化で目論まれている選別・差別は、大学において先行し拡大してきました。1997年、3年〜5年を任用期間とする教員任期法が制定され、「講座制」の長である教授に独占されてきた権限を解体し再編する作業が開始されました。労基法改正で14条2項(有期契約1回の上限)を1年から3年、特例5年とし、大学での教員任期制執行と整合させました。他方、1990年代の全国の大学院重点化政策により、教員・研究者予備軍であるオーバードクター層が大量に生み出され、(全国で2万人以上の有期雇用の非常勤講師等)、「高学歴ワーキングプアー」が大学等高等教育機関の裾野となる底辺労働者となったのです。
2004年国立大学法人化以来、大学予算の基礎となる運営費交付金を毎年1%削減してきた文科省は、教員・研究者の一部を終身雇用(テニュア)としてトップにおく「テニュア・トラック」システム導入にこれに相当する資金を注入してきました。このシステムは「高学歴ワーキングプア−」の有期労働者を対象とし、「テニュア」を「餌」にした選別システムとして登場しました。選抜で採用されたテニュアトラック教員は5年後に「テニュア審査」を受け、そのごく一部が「テニュア教員」として終身雇用が保証されるという差別選別のシステムです。
2011年11月現在、テニュアトラック制は48大学(テニュアトラック教員数:延べ646人)で導入され、2011年度の注入資金は81億円、期間選抜型に165人(1人当たり1000万研究費支援)、個人選抜型28人(1500万円/1人)を5年間支給するというものです。(毎年の運営費交付金の減額分と「テニュア・トラック」推進、「ポストドクター・キャリア開発事業」等の予算額はほぼ同額としっかり符合しています。)

2)全国のキャンパスで更新上限有期雇用職員を大量に雇止め解雇

2004年法人化以来全国のキャンパスで、これまでの臨時職員に代わり大量の有期雇用労働者が導入されました。この有期雇用契約には、更新の上限を設定する「●年条項」が秘かに盛り込まれました。この更新上限設定は、厚労省有期労働契約研究会が最終報告で「脱法行為である」として注意した代物です。キャンパスで、教員・研究者へ任期制を強行導入してきた「実績」の上に、一般職の有期雇用労働者に更新上限の設定を図るものとして、各大学は脱法承知でこの設定を行ったといわねばなりません。当然、3年から5年後に更新の上限を迎えた全国のキャンパスでは、2007年以来、更新上限による「期間満了」を理由として大量の雇止め解雇を強行してきました。同時に5年期限での試験制度によるごく少数の雇用継続、無期化も開始され、選別・差別制度が一般職有期雇用にも導入されてきたのです。

3)更新上限雇止め撤回の闘い

全国のキャンパス、とりわけ関西のキャンパスでは、この雇止め解雇に対する闘いが継続して取り組まれてきました。京大時間雇用職員組合・ユニオンエクスタシーは、4000人に達する有期雇用労働者の雇用更新上限の撤廃を要求し無期限ストライキに闘いに立ち上がり、龍谷大では研究助手の雇止め撤回の勝利的展開を勝ち取り、精華大では嘱託助手の「3年雇止め廃止」が闘われ、阪大では長期非常勤職員への上限設定導入に対する闘いが取り組まれるなど、関西キャンパスでの有期労働者、パート労働者、非常勤講師等の闘いが広がり、「なんで有期雇用なん」集会が3年連続で打ち抜かれています。

5、現実に進行する差別選別と改正法案

1)選別システム導入と整備

今回の法制化案では、18条において、同一雇用での更新5年で無期転換を確認しています。これは、現在就業中の有期雇用労働者には、新法が施行されて5年間何とか無事に更新を続けると、無期化される「夢」を持つことができるということです。さらに、この5年間に更新を拒否され、半年前後のクーリング期間を置くことになれば、それまで積み重ねてきた更新期間「ポイント」はリセットされ、ゼロから積み直しというわけです。
新法施行後5年間、現在雇用されている有期雇用労働者は、現在運用中の現行法令規則に揉まれ続けることになります。契約期間中の処遇は現行労働契約法17条「違反」の就業規則に縛られ、さらに「モグリ」の更新上限で解雇され続けることになります。かくて、5年後に一体何人が無期転換の「申し出」をすることができるというのでしょうか。
更新上限での選抜選考による雇用継続または無期化の制度は、すでに全国の独立行政法人では常態化しています。100人中1人が選抜による無期化の幸運に恵まれるという制度です。これは、まさに有期雇用に「テニュアトラック」を先行導入したというしかありません。独立法人を先頭にやりたい放題の使用者側は、雇用者の約半数を占める有期雇用従業者をただひたすら選別差別の雇用システムに囲い込んでいくことでしょう。

2)更新上限雇止め撤回裁判と上限設定の綻び、「選抜試験」導入

近年、雇用更新上限を迎え始めた有期雇用で、更新上限を理由とした雇止め撤回を要求する訴訟が全国で取り組まれ始めています。3年の上限での雇止めを無効とした立教女学院判決(2008年東京地裁)、不更新条項があっても解雇権濫用法理の類推適用を認めた明石書店判決(2010年東京地裁)と脱法行為とされた「更新上限」を悪用した雇止め解雇は無効との判決が露出するようになってきています。
上限設定による雇止め撤回の闘いが展開されてきた大学法人等ではこの事態に対応する方策として、2010年京都大学では期間満了を迎える有期雇用職員へ試験選抜制度による「例外的登用」の”ガス抜き”制度を開始し事態を糊塗してきました。同様の制度は全国に波及し、あたかも有期雇用職員の「無期転化」システム作りを試行しているが如しです。

3)現行17条2項違反、雇用期間細切れ化

有期労働者の働く現場では、雇用期間が1年から6ヵ月、さらに3ヵ月と細切れ化がどんどん進んできました。労働契約法17条2項では「使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」と定めています。ところが、使用者側は、この法令を真っ向から無視し、”需給の変動に速やかに対応する”と称しては有期労働者にツケを回し続けています。同時に元々「労使対等」を大きく外された有期労働者について、一層の不安定化が進められているのです。労契法17条2項の「努力規定」は現場では公然と破られています。

4)雇用期間内の中途切りと解雇処分制度の密輸入

2008年リーマンショックの下、全国の大企業含めて期間雇用の従業員の中途解雇が相次ぎ、キャノン、いすゞ等、解雇撤回の闘いが全国で展開され、年末から正月にかけての「テント村」が創設される事態となりました。
2009年4月いすゞ自動車派遣切り・宇都宮地裁栃木支部2009.4.28決定を初め、期間中途の解雇は違法として、解雇は撤回されたのです。(いすゞ自動車が2008年の年末で553名の期間工を解雇し、812人の派遣労働者の受入を中止したのを受けて、派遣会社プレミアラインがいすゞ自動車栃木工場に派遣していた派遣労働者を期間途中であるにもかかわらず全員解雇しましたが、裁判所は、「やむを得ない事由」に関する国会答弁や厚生労働省通達に照らして、派遣先による受入の打ち切りにより、労働契約も終了するという取扱いは認めないとし、会社が解雇通告後書かせた退職届について、「著しく正義・公平の理念に反するものとして、社会通念上、到底容認することができない」として厳しく批判し無効としました。)
しかし現場での就業規則では、いずれも有期契約期間内での解雇(中途切り)の規定に、正規従業員の解雇規定をそのまま流用しています。
現に大学法人では、有期雇用職員就業規則で期間中途の解雇を堂々と謳い込んでいます。
「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」第13条
短時間勤務有期雇用教職員が、次のいずれかに該当するときは解雇する。
(1) 身体又は精神に障害があり、医師の診断に基づき業務に耐えられないと認められたとき
(2) 勤務成績が不良で、就業に適しないと認められたとき
(3) 事業の休廃止又は縮小その他事業の運営上やむを得ないとき
 (中略)
(6) その他業務に必要な適格性を欠くとき
(7) 前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき。
「京都大学時間雇用教職員就業規則」第15条 
時間雇用教職員が次の各号の一に該当する場合には、解雇することができる。
(1) 職務遂行に必要な資格を喪失した場合
(2) 勤務実績不良あるいは能力不足が著しく、改善の見込みがない場合
(3) 協調性を欠き、集団的な職務遂行に支障を生じる場合
(中略)
(6) 事業の縮小又は完了などにより時間雇用教職員の解雇がやむを得ないこととなる場合
(7) その他の事情により時間雇用教職員の解雇がやむを得ない場合
既に2004年から運用されているこれらの就業規則は、無期雇用職員就業規則の一般解雇条項がそのまま転用されており、労働契約法17条1項での中途切り禁止の条文(強行規定)とはまるで無関係の条項であるかのように、現行規則としてまかり通っているのです。
一体どうなっているのでしょうか。

労働契約法17条1項「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」は極めて厳重な規定(「強行的なルールであること」)であり、「やむを得ない事由」は「一般的には,期間の定めのない労働契約につき解雇権濫用法理を適用する場合における解雇の合理的理由より限定された事由であって…(中略)典型的には…使用者が経営を存続しがたくなったこと」「重大な債務不履行を行ったこと」「労働者が就労不能になったこと」「重大な非違行為があったこと」(荒木尚志、菅野和夫、山川隆一「詳説労働契約法」)が挙げられています。かつその立証責任は使用者側が負うことが明確にされています。
すなわち労働契約法17条により、有期雇用労働者の契約期間内の解雇=中途切りは、16条、無期労働者の解雇条項「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」の規定より厳格であり、「客観的合理的理由、社会通念上相当」(例えば無期労働者の就業規則での一般解雇)が認められる場合でさえ、使用者が「やむを得ない事由」を立証できなければ解雇は無効となるのです。

6、あらゆる分野で選別・差別・切り捨てを許さないたたかいを

キャンパスの高級職員で先行した「テニュアトラック」という差別・選別制度が、下級有期雇用職員まで含めた制度として、作り上げられようとしています。改正労働契約法はこれに法的な枠組みを提供するものとなっています。有期雇用の更新上限設定は、「任期法」の有期雇用職員への強制適用であり、有期の「無期=テニュア」化を「頂点」とすることで、この「制度設計」が何を目論んでいるのか、明確になってきたといわねばなりません。
改正契約法第17条(契約期間中の解雇等)は、旧条文と同じく雇用期間中の雇用保障を原則に掲げ、解雇等処分を厳しく規制した規定です。年収200万円以下という劣悪な労働条件で働く有期雇用労働者に対して、「テニュア」のアメと期間途中での「通常条項」による処分を強制するムチとを使い分ける、巧妙な労務管理が罷り通っているなか、契約法第17条の厳格適用は有期雇用制度そのものを立ち往生させることになるでしょう。
「契約更新」や「更新上限設定」に、「合理的な」差別・選別制度への道を用意する改正契約法は、第17条を巡る熾烈な攻防により、「合理的な」差別選別制度が原理的に内包する「非合理性」を露呈し、破綻への道行きを辿るという他ありません。
有期雇用の現場では、使用者側にとり不都合な有期労働者に対し、「就業規則を適用した解雇」や「パワハラ、いじめ・嫌がらせ」による「自主退職」=解雇が横行しています。「パワハラ・いじめ・嫌がらせ」相談件数が激増(2002年度6600件から2010年度39400件、都道府県労働局集約)し、底辺で差別される有期雇用労働者にこれが集中され、中途切り解雇とパワハラは密接不可分の攻撃となっています。

今回の法制化は、5年後の「無期転換」と既に横行している契約期間中の「中途切り」を表裏一体とした、差別・選別「テニュアトラック」制度作りへの道を開くものであり、日本の雇用制度を更なる混迷と破綻に導くものであるといわねばなりません。
労働の現場で、また国会・政府に対し、これらの選別・差別・切り捨てを許さない闘いを組むことが、キャンパスはもとより全分野で求められています。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・12

2012,3,26

政府は23日,労働契約法改正案閣議決定.今国会に法案提出

3月5日予定の第100回労働条件分科会が、3月16日午後1時〜2時半に行われました。前回厚労大臣が諮問した「労働契約法の一部を改正する法律案要綱」について、分科会はおおむね妥当とし法案要綱として決定し、審議会令により、即、厚労大臣に答申したこととなり厚労省は今国会に法案提出を表明。23日の閣議でこの労働契約法改正案を決定しました。

分科会には、昨年12月の「建議」と今回の「要綱」(添付資料参照)が資料として出され、質疑が行われました。以下質疑の概要です。

第1、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換について

労働側より2月29日の要綱について、重要法案であり懸念される内容について再度確認したいとして、無期転換の申込期間が建議にない「契約期間の満了する日までの間」とあるが、法文上明記しないで個別の場合は裁判所の判断に任すべきではないか、労働者からの申込みについては派遣法にある「見なし規定」とすべきではないかと質問しました。
これに対して事務局側は、労働者が不安定な状態を続けないようにすべきで,期限を明確にすること、権利行使期間としては十分であること、派遣法の「みなし雇用」は「違法派遣を受け入れた場合の派遣先の民事上のペナルティ」でありこれとは違う、分かりやすいパンフレットなどを作り周知徹底を図ると応えました。
労働側は周知に全力で取り組むことを再度要請し、労働契約法に3つの条文の追加になると思うが、第1の2は2重カッコ、枠わけなどもしてもう少し簡潔にしてほしいと要望しました。
使用側も条文の趣旨は「読んで理解し守ろう」であり、第1の2は余りにも分かりにくい。予算が足りないのかもと質問しました。
事務局側は「予算もしっかり取っているつもり」で図解など示し周知徹底を図ると応じました。
労働側よりパンフ・図解等は重要だが、無期化を免れるために同じ社内でも「派遣」「請負」に切り替える等脱法が起こる懸念が表明され、事務局は第1の1で同一使用者との間で実態が変わらないのに、派遣、請負への切り替えは「潜脱」と考える、と応じました。
使用側より有期雇用は若年、女性が多いが、どれくらいの人数が有期から無期への転換を希望すると期待されているのか、使用者が十把一からげにされ、中小・零細への配慮が見えない等と苦言を呈しました。
事務局より、単純にみて1200万人の有期雇用のうち約3割の360万人が5年を超えている。その中でどれだけが権利主張するか、である。中小・零細について、個人雇用も当てはまるのでトラブルがないように効果的な周知が必要、と応じました。
分科会長より、5年以上で無期化だが直ちに権利取得ではなく第5の2、施行の日以降5年間カウントするので、5年間は無期転換は起こらないことが指摘されました。

労働側より第1の2、2ヵ所に「省令委任事項」があるが民事法の意味を変えてしまうので、すべて法文として書き国会の審議にかけるべきで、行政の判断基準、省令委任事項が増えることは避けるべきではないか、との質問に対し、事務局側は内容が複雑で省令委任はやむを得ない、ただし今後はこれを前例としない、と応じました。

審議の最終回にあたり労働者にとって極めて不利なク−リング期間自体について、何らの質疑も行われなかったことは「有期雇用法制化」の重大な問題点を労使ともに意図的に避けたことにほかなりません。

第2、有期労働契約の更新等。「雇止め法理」の法定化について

労働側よりなぜタイトルがこうなったか、第1、第3とタイトルが違い雇止め法理の制定化をイメ−ジしにくい。二つの雇止めのうち第2の2、日立メディコの例で、契約期間満了時に契約が更新されるものとの期待することについて合理的理由があるものとされているが、松下プラズマディスプレイ判決では満了後も期待権が認められた。合理的期待はトータルに判断されるもののはずだが、「満了時」に限定されるのではないか、と質問しました。
事務局側は、第2は雇止め法理の成文化である。裁判所は満了時に契約から満了時までのあらゆる事情を考慮しているので、使用者が一方的に期限を切っても成立とはならないとの見解を述べました。
労働側は、契約時から次第に合理的期待は高まる。裁判例で一方的に雇止めは成り立たないという説明は分かるが条文を見た現場の労使がどう読むか。満了時に期待をなくせばいいという誤った考えをとらせないための周知が必要ではないか、との問いに、事務局は国会審議でも誤解を招かないよう周知を図ると述べました。

「雇止め法理」の法定化については労働者がそれを現場でどう活用できるか、生かせるか、そのことが現場でも裁判でも課題となります。

第3、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止について

労働側より不合理な労働条件は無効か、損害賠償が求められるか、の質問に対し、事務局側は前回と同じ民事効のある規定と答えました。
更に労働側より特許法35条-4項、職務発明の対価との比較で、本当に効果ありか、公益側の法律家はどうかとの疑問が出されましたが、事務局は厚労省としては今回の民事効について国会でもそう説明する。公益委員からは明文規定がなくとも今回の有期労働者の保護については民事効はあり、裁判でも認められる、特許法とは違うのではないか、との発言がありました。
使用側からは前回と同じ、第5の付則、施行時期が気になる。企業実務として1年以内は結構あわただしい。法成立段階で施行時期を早く示して欲しいとの要望があり、事務局は十分な準備ができるように努力すると答えました。

労働側より我が国では初めての有期法制化だが、韓国では法制化で雇止めが発生し、以前に比較してかえって非正規が増大した経過があった。韓国の事例を参考にして労使間で十分検討するとの議論があったが、建議にあった利用可能期間前の雇止め抑制策についてはどうなったのか、の問いに対し、事務局側は建議の趣旨については、法成立後効果的方策を速やかに検討すると答えたのみでした。
使用側より、無期転換ルールにより無期になった労働者を統計上どう分類するのか。正規・非正規の二元論で統計上の整理をするのか、企業としては真剣に考えていると質問。
公益委員より、正規・非正規の二元論が問題。フルタイム・無期・直接雇用になれば正規に入ってくるが、今回は有期から無期への壁をまず乗りこえることが課題と説明しました。
事務局は統計について厚労省の対応を検討すると述べました。
労働側より総括的に、有期雇用は全労働者の1/3以上1700万を超え、労働契約法で有期労働契約改正の影響は裁判を含め極めて大きい。十分時間をかけて議論したいと思った。横書き建議を縦書きにすべきだが過去の例から見ても時間が短かった。今後時間的余裕を要求したい。追加3箇条は労働契約法の19箇条に比べてわかりにくい。国会議論で誤った理解などが起こらないよう周知を求めたい。懸念点が完全に払拭されてはいない。立法府のみならず、行政側の対応も求めたいと要望しました。
使用側から労働側の発言は三つともネガティブだが、了解でいいのかと問いつつ、これまで使用側としては何らかの規制ルールを作ることに反対を貫いてきたが、長い期間かけた検討で年末建議にまとめられた。建議と同一のものとして了承する、と表明。労働側も了承と答えました。

以上、要綱案は分科会において意見の一致に達し、本審への報告、大臣への答申となりました。
最後に事務局より答申案を読み上げ、分科会、審議会での審議終了とすると表明。事務局長より一昨年10月以来の審議で昨年末の建議、要綱の答申から、今国会の審議に法案を急いで提出することが表明されました。

18回にわたる分科会は終了し、冒頭に述べたように法案は閣議決定され、有期雇用法制化はいよいよ国会審議の段階に達し予断を許さない状況です。法案は無期雇用原則の確立、有期雇用原則的禁止とは遠い内容であり、あらためて国会審議への監視・追及活動とともに、労働現場での闘いの強化が求められています。

労働契約法の一部を改正する法律案要綱

第一 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
一 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。第一において同じ。)の契約期間を通算した期間(二において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなすものとすること。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とするものとすること。
二 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日以後最初に到来する当該使用者との間で締結された有期労働契約(以下二において「次契約」という。)の契約期間の始期が当該満了した日の翌々日以後である場合であって、当該満了した日の翌日から次契約の契約期間の初日の前日までの期間が六月(当該一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約の契約期間を含む二以上の有期労働契約の契約期間が連続しているものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合は、これらの契約期間を通算した期間。二において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した期間)以上であるもの(二において「空白期間」という。)があるときは、当該空白期間の初日(空白期間が二以上あるときは、当該空白期間の初日のうち最も遅い日)前に契約期間が満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しないものとすること。

第二 有期労働契約の更新等
有期労働契約であって一又は二のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすものとすること。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

第三 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(第三において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないものとすること。

第四 その他
その他所要の規定の整備を行うものとすること。

第五 附則
一 施行期日
この法律は、公布の日から施行するものとすること。ただし、第一及び第三並びに第五の二及び三は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。
二 経過措置
第一は、第一の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、第一の施行の日前の日が初日である期間の定めのある労働契約の契約期間は、第一の一の通算契約期間には、算入しないものとすること。
三 検討規定
政府は、第一の施行後八年を経過した場合において、第一について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・11

2012,3,10

2月29日午後5時〜6時半、第99回労働条件分科会が行われました。昨年末、厚生労働大臣に対して「有期労働契約の在り方について」が建議され、今回、同大臣より「労働契約法の一部を改正する法律案要綱」(下記の第1〜第5)が分科会に諮問されました。

  • 第1、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
  • 第2、有期労働契約の更新等
  • 第3、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
  • 第4、その他
  • 第5、附則

分科会での質疑応答は概ね次のとおりです。

第1、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換

1、「有期労働契約が5年を超える労働者が、当該使用者に対し期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件とする」について。

事務局より要綱第一の「二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が」とあるのは労基法14条の1回の契約5年の場合は、権利は発生しないということである、との追加説明がありました。
労働側から、「現に締結している有期労働委契約の契約期間が満了する日までの間に、期間の定めのない労働契約の申し込みをしたときは」というのは建議には書き込まれていなかったが、契約満了日を越えたら無期転換申込みはできないのか、権利が生じても見落とす可能性があり、申込の有無を巡るトラブルが懸念され、労働者への周知、労働者使用者双方への行政指導が重要であるとし、さらに無期契約が成立した際、「有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件」で固定化されるのではないか、更にカッコで「別段の定めがある部分を除く」とあるが、労働条件が従前の条件より切り下げられる懸念もあるとただしました。
これに対し事務局から、契約期間満了後は無期への転換の申込はできない、周知は重要であり労使双方に周知を図る、無期への転換は前提であり、労働条件は従前と同じとなるが、賃金等労働条件は本来労使間で決めること、就業規則の変更は労基法に則り不利益にならないようにするのは当然、労働条件の変更は合理的なものでなくてはならないとする回答がありました。
さらに労働側から、無期転換の権利を事前放棄させられる可能性があるが、事前放棄にサインさせられて無期転換を申し込んだらどうなるのかとの質問に対して、事務局は、事前放棄させることは無効で、サインがあっても申込みはできると答えました。
使用者側は、持ち帰り議論したい、第1の2と第2は分かりにくい、昨年末の建議通りの内容と理解して検討するとしました。

2、「有期労働契約の契約期間が満了し、次契約までの期間が6月(期間が1年未満ならその半分)以上があるときは通算契約期間に算入しないものとする」について。

この文案は労使双方とも、分かりにくい、労働者が読んで分かるのかとし、事務局も非常に複雑な文章となっているとしました。厚生労働省令で定める基準について、事務局は、複数の契約が続いている場合、間を空けず合算すること、1年未満では1/2とする場合、月単位の原則であること、これらを省令事項とするよう考えていると説明し、労働側はこれを法律の本文に入れるよう要望しましたが、事務局、公益委員は法律の範囲であると答えました。
しかし、そもそもクーリング期間設定の最も肝心な問題は、このクーリング期間設定により得をするのは使用者側だけであり、労働者には何一つ得るものがない点にあり、使用者側が5年更新後の無期化容認の代償とした、というのが実情であろうかと思われます。

第2、有期労働契約の更新等

有期雇用労働者が契約更新等の申し込みをした場合「使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすものとする」について。

本文の後に、1 東芝柳町事件の判例、2 日立メディコ事件の判例に従った内容が出されています。いわゆる「雇止め判例法理の法制化」の条文案です。
労働側より、判例に何も足さず、何も引かずと言いながら、1で「社会通念上同視できると認められること」、2で「更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること」とあり、「認められる」がついたのはなぜか、誰が認めるのか、表現が最高裁判決と違っており,引き下げられるのではないか等の質問が出ましたが、事務局は、「認められる、誰が」については、客観的に認められることで、裁判なら裁判長であるとし、表現については、松下プラズマ事件の最高裁判決に同じ表現があると答えました。これらについてはさらに細かい質疑はありませんでした。

第3、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

有期労働契約である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容等、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない、について。

労働側より労働条件はどこまでの範囲か、労基法3条と同じと考えてよいか、就業規則他のルールとの関係はどうかとの質問に対し、事務局は、安全衛生等を含め幅広く考えると答えました。
労働側が、不合理である場合は司法上の効果はあるのかと質問したのに対して、事務局は、民事効のある規定であり無効となり損害賠償等の対象となるとの回答がありました。これについては、国会でも同様の答弁をするとのとでした。
労働側が、立証責任について,労使間には情報の格差があるがどちらが立証するのかと聞いたところ、事務局は、労働者が立証し使用者が反証すると答えました。
また、労働側より、建議の2の「制度の運用」で検討された、利用可能期間到達前の雇止め抑止策はどうなったのか、との質問に対し、事務局は、建議でも雇止めの問題は課題であったが、この法律と政策は一体のものとして具体化していく所存と述べました。

第4、その他(その他所要の規定の整備を行うものとすること)

第5、附則(施行期日、経過措置、検討規定)

使用側より、第1及び第3並びに第5の2及び3は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとあるが、使用側としても準備もあるので早く決めて欲しいとの要望をしました。

労使ともこの要綱案を持ち帰って協議するとしましたが、会長より、3月6日に再度分科会を開催する旨指示がありました。(3月2日事務局より開催中止のTelが流され延期されています)いずれにしても、近日中に分科会が開催され、国会へ法案が上程される段階にきています。

最後の分科会から国会へと、しっかり監視の行動をやり抜いていきましょう。

労働契約法の一部を改正する法律案要綱

(2012年2月29日労働条件分科会で配布)

第一 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
一 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。第一において同じ。)の契約期間を通算した期間(二において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなすものとすること。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とするものとすること。
二 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日以後最初に到来する当該使用者との間で締結された有潮労働契約(以下二において「次契約」という。)の契約期間の始期が当該満了した日の翌々日以後である場合であって、当該満了した日の翌日から次契約の契約期間の初日の前日までの期間が六月(当該一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約の契約期間を含む二以上の有期労働契約の契約期間が連続しているものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合は、これらの契約期間を通算した期間。二において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した期間)以上であるもの(二において「空白期間」という。)があるときは、当該空白期間の初日(空白期間が二以上あるときは、当該空白期間の初日のうち最も遅い日)前に契約期間が満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しないものとすること。

第二 有期労働契約の更新等
有期労働契約であって一又は二のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすものとすること。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

第三 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(第三において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないものとすること。

第四 その他
その他所要の規定の整備を行うものとすること。

第五 附則
一 施行期日
この法律は、公布の日から施行するものとすること。ただし、第一及び第三並びに第五の二及び三は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。
二 経過措置
第一は、第一の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、第一の施行の日前の日が初日である期間の定めのある労働契約の契約期間は、第一の一の通算契約期間には、算入しないものとすること。
三 検討規定
政府は、第一の施行後八年を経過した場合において、第一について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・10

2011,12,29

労働条件分科会、
「入口規制なし」「5年間反復更新後、無期可」
「有期クーリング(解雇)期間・・半年」を 決定。

12月19日夜第97回労働条件分科会が行われ、事務局より「有期労働契約の在り方について(報告)案」が提示されました。
12月26日第98回労働条件分科会が行われ、事務局は第97回で提示した案を修正した有期契約の「入口規制なし」「5年間反復更新後、無期可」「有期クーリング(解雇)期間・・半年」とした「有期労働契約の在り方について(報告)案」を提出し、労使等の意見表明の後、分科会で承認の手続きが取られ、労政審議会に対し労働大臣への建議をすることが決まりました。

第97回労働条件分科会

第97回労働条件分科会が、前回12月14日の5日後19日 17:00~19:00に行われ、まず、前回事務局提示の「有期労働契約の在り方に関する論点(改訂)」案について、労使双方が意見を述べた後、10分間の休憩をおき会長と事務局で協議したとして、「有期雇用契約の在り方について(報告)案」が提示配布されました。引き続きこの報告案について協議が行われ「論点2」について1時間ほど議論が行われ、論点4について若干協議がありましたしたが、他の論点については殆ど意見はなく終了となりました。そして、事務局で必要な修正を行い、12月26日に最終取りまとめ案が提示されることとなりました。

第96回提示の「有期労働契約の在り方に関する論点(改訂)について

労働側は、論点1〜6について前回述べたことを簡単に繰り返しましたが、論点2(出口規制)について、有期契約労働についての初めての法的規制であるが、既に韓国では2年繰り返し更新された場合は無期契約に転換する規制が2007年から実施されていること、出口規制による「副作用」についての懸念などから利用可能期間を慎重に決めることが必要とし、制定後も見直しをやる必要があることを述べました。
使用側は、前回の資料1を持ち帰って関係方面とも検討したが、余りにも時間が短く今日までに結論を出せなかった等6点を挙げて論点案に対し否定的あるいは消極的な意見を述べました。クーリング期間、利用可能期間、有期契約への一律的な規制、仕事や雇用の仕方の変化、法的規制をする時期か否か等具体的な指摘をして、利用期間を決めることには反対であるとしました。
会長より、事務局に素案を作成してもらい議論をしてきたが、ここで時間を頂き暫時事務局と協議をしたいと発言があり、10分間の休憩となりました。

10分間協議後配布の「有期労働契約の在り方について(報告)」(案)について

事務局より「有期労働契約の在り方(報告)」(案)が配布され読み上げられました。その後労使の意見表明ということになりました。

論点1(有期労働契約の締結への対応)について

労働側は、自分達の主張を取り入れてもらったと評価する意見表明があり、事務局は事実を記載したとし、使用側からは発言がありませんでした。

論点2(有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応)について

@無期転換に際し労働者の申出
労働側より、雇用の原則は無期と考えている。有期雇用については期間を限って例外的に認めるということで、期間の上限を超えたときは自動的に無期に転換するとするべき
で、上限を超えたとき労働者の申出により無期への転換をするというのでは紛争が増大することが懸念されると述べました。
事務局より、労働者の申出があれば無期になる、申出がなければ有期のままで、契約の自由から労働者の意思に関わらせることにより民事的な効力を発生させることが必要としました。
A派遣等との関係
使用側より、派遣の場合、有期雇用の派遣労働者と派遣元と派遣先の関係で混乱が生じるのではないか、60歳を超えた有期雇用の60歳以前の労働条件の格差が論点4の不合理な処遇問題
になるのではないか、との質問があり、
事務局より、派遣の場合は派遣労働者派遣元先の三者の関係であるが、派遣労働者と派遣元の雇用関係について限定したものであり問題はない、また60歳を超えた有期雇用で60歳以前の労働条件と格差があるかどうかは個々のケースにやるもので、論点4の不合理な処遇は有期同士の格差を問題にするものではないとしました。
B無期転換の際の労働条件
使用者側より、無期転換の際の労働条件は従前と同一
とはどういうことか、また派遣先の労働条件が派遣元との労働条件になるとはどういうことかとの質問があり、
事務局より、無期転換の際、有期が無期になることが変更点で他の労働条件は転換直前の労働条件であるが個々の話合いで決まることもあるとし、派遣の場合も同じであるが労使で話し合って決めていくこともあるとしました。また公益側も無期になっても従前の労働条件が推定されるとしました。

C申出の法的内容
労働側より
、申出により無期に転換することについて申出の意思表示を必要とする裏付けが不明である、労働者との期間の定めの変更ということか、労働者の申出に対する使用者の承諾ということか、申出したにも拘わらず使用者が雇い止めをしたとき労働契約法16条の解雇権濫用法理が適用されるのか、申出権はいつまで有効か、という質問があり、
事務局より、制度を作るときに細かくは決めていきたいとし、有期雇用から無期への転換の権利が生じた労働者からの申出により無期の契約が新たに締結されるものである、これに対し使用側が雇止めした場合は労働契約法16条の濫用法理が適用され、申出は利用期間内としました。 労働側より、細部は制度を詰めるときになると思うが、その懸念について、利用可能期間が重要で労基法14条で期間を3年としているのは大事なことであるとの発言がありました。
Dクーリング期間について
事務局より、クーリング期間とは同一の労働者が無期転換の対象とならない有期労働契約を再度締結できるようになるための期間
であるとの説明がありました。それを何年(月)の反復継続に対し、何年(月)の期間を基本とするか明確化したいとの提示がありました。
労働側より、雇用保険の悪用が起こらないような期間の設定が必要との指摘がありましたが、使用側よりとくに発言はなく、60歳以降の定年後の無期転換についてのやりとりをしました。

論点3(雇止め法理)の法定化

意見なし

論点4(期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消)について

@不合理の証明
労働側より、不合理な処遇があった場合、職務の内容や配置の変更等について情報を持っているには使用側だから、労働側が証明責任を負うのか難しい
、としたのについて事務局は、一般に不合理を主張する側が責任を負うとしました。
A「不合理な」と「差別的」は同じ意味
使用側より
、前回の資料1の論点(改訂)の4でいう差別的な(不利益な)という表現が不合理なという表現に変わっているが同じ意味かという質問があり、事務局より同じであるという答えがありました。
B民事効
使用側より、「不合理なものであってはならない」というのは、反した場合は無効となるのか
、努力義務であるのかという質問があり、事務局や公益側より規範的な概念であり、反した場合は民事効として無効となりうるとしました。

論点5 論点6 論点7

いずれも意見なし。
以上

第98回労働条件分科会

第98回労働条件分科会は前回から1週間後の12月26日午後4時より行われ、事務局が前回の案文を修正して提出した「有期雇用契約の在り方について(報告)案」(別紙「資料1」参照)が配布され読み上げられました。引き続き、労働者側から「案として了承」、使用者側からは「案として理解する」との意見表明があり、この提出案について分科会で承認手続きが取られ、労政審議会へ大臣建議を要請することを確認して終了となりました。

事務局より「有期雇用契約の在り方について(報告)案」が配布され、読み上げられました。その後、会長から意見を求められ、
労働者側より、報告書案は概ね議論を反映していて、異存はないとして、@有期労働契約に法的整備がなく一定の法的整備を行うことの意義は大きい。A利用可能期間の制限は我が国で初めて導入する制度であるが、事前の雇い止めの抑制問題がある。クーリング期間については今後も議論が必要。B労働者派遣法改正案等労働法関係法を回避するような個人請負への移行が懸念され対策が必要である。と意見を述べ、この案を了とするとしました。
審議官より、労働契約が請負等の契約に変わることへの懸念が労働側より表明されたが、労働関係法令はその実態をみて実質的に使用従属関係が認められる場合は当然に適用されると述べました。
使用側より、今回の案は審議会の議論を踏まえた内容として理解する。労働市場への混乱や企業の人事管理上の負担が心配される。厳しい経済情勢下の規制強化は慎重にやるべき。審議会の時間が短すぎた、今後配慮をしてほしいとの要望がありました。

会長より、今回提出の報告書案を分科会として審議会の本審に報告し厚生労働大臣に建議をしたいとの提案があり、了承となりました。

局長より、建議をもとに法案を作成し、あらためて本分科会に諮り、次期通常国会に法案を上程したいと発言がありました。
以上

資料No.1 有期労働契約の在り方について(報告)(案)

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・9

2011,12,18

第96回、事務局 有期雇用○年後「無期雇用」転換案を提示

第96回労働条件分科会が、前回の9日後の12月14日
9:30~12:30に行われました。事務局は「有期労働契約の在り方に関する論点(改訂)」(配布資料No1)の「論点2」で「有期雇用が一定の年数を超えて反復更新された場合には、労働者からの申し出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み」を提示しました。また、「論点3」で「期間の定めを理由とする差別的な取り扱い」を規制することを提示しました。本日の分科会は、全論点を協議する3時間の長丁場となりましたが、いずれもさらに一歩踏み込んだものとなりました。

第96回分科会

論点1(有期契約の入口規制)について

1 有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応
○有期労働契約は、合理的な理由がない場合(例外事由に該当しない場合)には締結できないような仕組みにすることについては、例外業務の範囲をめぐる紛争多発への懸念や、雇用機会の減少への懸念等を踏まえると、慎重な検討が必要となるのではないか。 (配布資料No.1より)

改定案について、労働側から「慎重な検討が必要」となったのは残念。日本の活力は中間層の厚みだったが、労働者の1/3が有期雇用。締結事由について引き続き検討を求めると表明。使用側から、「雇用機会の減少の懸念」とは何かとの問いに、事務局は「規制によって機会が減少すること」との答え。使用者側は「この懸念については、第一ラウンドから主張したことであり、穏当な主張だ」と評価しました。

論点2(有期契約の出口規制)について

2 有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応
○有期労働契約が一定年数を超えて反復更新された場合には、労働者からの申出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み(転換に際し期間の定めを除く労働条件は従前と同一とする)を導入することについては、雇用の安定や有期労働契約の濫用的利用の抑制という観点から、評価できるのではないか。
この場合、次のような論点について、更に検討を深める必要があるのではないか。
・利用可能期間は何年とするか。
・同一の労働者と無期転換の対象とならない有期雇用契約を再度締結することが出来るようになるまでの期間(クーリング期間)を設けるとすれば、どのくらいの期間とするか。
・適用除外を設けることとするか。
・利用可能期間到達前の雇止めの懸念について、どのように対応するか。
・制度導入後に締結又は更新された有期労働契約から、利用可能期間の算定を行うことでよいか。 (配布資料No.1より)

1、前段については
「有期雇用が一定の年数を超えて反復更新された場合には、労働者からの申し出により、期間の定めのない労働契約に転換させる」
のうち、1)「労働者からの申出」と2)「有期から無期への転換」について質疑応答がなされました。
1)「労働者からの申出」について
@労働側から、一定の期間経過後には自動的に無期に転換するべきで、有期契約に止まりたい場合に限って労働者の意思表示があればいいとの意見が出され、事務局は今回の案は労働者派遣法改正時の議論をモデルにしたとして、労働者からの申出により、有期雇用契約の変更の意思表示があったものとみなし、無期契約に転換させるものであるが、無期への転換を期間経過後自動的にする、労働者の申出があってするなどいろんなケースがあるので検討してほしいとしました。
A公益側より、当時の派遣法研究会では、派遣の場合は派遣先との雇用契約がないから、期間経過後に雇用関係になるには労働者からの申込みと派遣先の承諾が必要であるとされた。しかし雇用関係にある有期雇用の場合はこれと異なる検討が必要であるとの説明がなされました。
B使用側からは、この提案は今日初めて見たもので、規制の強化は有期契約の改善にはならないという態度は変わらない、提案は持ち帰り検討したいとしつつ、使用者側からも意思表示があってもよい等の意見が出されました。
2)「有期から無期への転換」について
@使用側は、外国では正規の解雇は容易と聞いているが、有期契約は改善をして無期正社員はそのままに放置しておくのはおかしい、有期をいじるなら無期正社員も変えるべきとし、有期契約の無期契約への転換の意味の説明を求めました。
A事務局は、EU諸国では一般的に出口規制が多く有期で一定年数経つと無期に転換している。我が国でも有期雇用での格差を是正し労使の対等性を保持するため、労働者の申出の権利による無期への転換の効果を認めることが適当であるとし、また、使用側から労働者に対して無期への転換を求めることについては、労使の話し合いによることが適当であるとしました。
B労働側は、労働者の意思表示を絡めることについて、どういう法的な効果があるかも含めて検討したい。無期への転換に際して期間についてのみ変更する案であることを確認し、さらに諸外国に比べて我が国の正社員は解雇されにくいというのか、あらためて確認を求めました。
C公益側より、正社員の解雇は数値化して比較しづらい。我が国に限らず諸外国でも合理的な理由のない解雇は容易に出来ない。我が国では整理解雇について外国に比べて厳しいと言われているが、大企業では容易ではなく中小企業では頻繁に行われている現状で、一概にはいえないと説明がありました。
3)濫用的利用の抑制について
事務局は「期間終了のみで雇止めする」など、有期雇用の不適切な使用があるとしましたが、労働側は雇止め防止策として無期転換の支援措置の必要性があり、ドイツや韓国でも同様の措置がされているとしました。

2、後段については
1)利用可能期間
@労働側
は、このような制度を初めて導入するので難しいが、例えば先行している韓国では2年としている。我が国では労基法14条が参考になるが、この一定の期間が決定されたとしてもメリットデメリットがあり、見直しを含めた制度とすべきと主張しました。
A使用側は、雇い止めの可能性が低く、無期への転換がスムースな仕組みが必要で、相当程度時間的に余裕を持った期間、労基法14条で言えば5年、1回更新で基本的には10年、実務的には7年が必要であると述べました。また、派遣の場合派遣元との契約であるのに期間の設定で無期に転換することと仕事の設定や期待値などマッチングのスパンの違いの考慮が必要との指摘をしました。
2)ク−リング期間の設定
@労働側は、クーリング期間を設けることは使用者が再度有期契約を結ぶことを前提にしておりクーリング期間は原則的には設けるべきではないとしました。今回の無期転換の提案で考えると、無期転換の申出をしない労働者はそのまま有期契約を続けるのだから、クーリング期間は不要ということになるのではないか。また、無期転換を逃れるため、使用可能期間直前で雇止めして雇用保険で肩代わりする脱法行為もあるので、少なくとも雇用保険の基本手当受給可能期間より長い期間を考えるべきとしました。
A公益側よりドイツの解雇保護法ではク−リング期間は脱法を誘うとの考えだが、1996年法では4ケ月以上おかなければならないとされたとの指摘がありました。
B使用側はトヨタの求人票からリピ−タ−が多く3年以内で雇止めされた人でも長く勤めていた人ほど日給が高くなっているが、クーリング期間を設けて再度有期契約できるようにした方が有利となっている。このことからもクーリング期間を設けなければ労働者の雇用機会をなくすことになると考える。派遣法から考えても期間は3ケ月が適正であるとしました。
C事務局は、無期転換しないで有期契約を再度結ぶまでどれ位期間を空けるかということだが、立場によって期間が違ってくるとしました。
*論点2について追加
@使用側より
、利用可能期間がある程度長くないと、有期契約を続けるにしても無期に転換するにしても見極めはつかない。また、無期と正社員は違う、有期から無期、無期から正社員、無期にも正社員、準社員など、多様なニ−ズに合わせて考えられるが、無期から正社員化を労働契約ル−ルの中で取り扱うのは難しい。有期だけの条件をよくするのでなく無期の方もどう規制するか考えてほしいと不満を述べました。また有期と正社員のカテゴリ−しかイメ−ジがわかないので無期へ転換する仕組みをどう飲み込むのかはかなりはハ−ドであり、飲み込んで食べたら苦いので吐き出したくなりそうな感じがあると述べました。
A労働側より、利用期間ぎりぎりの雇止めが懸念されるがこれを防止する支援策はないのか、またドイツや韓国では取っているといわれる、無期の正職化の推進策はないのかと質問しました。
B事務局は、雇止め防止のためにはこの制度設計がどうか、また能力開発支援とか正社員転換助成があるが、契約法上で対策を取り扱うのは難しいと答えました。
3)適用除外
@使用側より高齢者雇用で有期になったものを再び無期にしたり、高校や大学生のアルバイトを無期にするのは厳しい、是非設けてほしいと述べました。
A労働側は利用可能期間との組み合わせで考えていると簡単に述べるに止まりました。
B事務局は、適用除外が理論的にはあり得るが、使用側が挙げた具体例をそのまま除外するということにはならないとしました。また、制度導入後に締結された有期契約から利用可能期間の算定を行うことでも検討していきたいとしました。

論点3(不合理な「雇止め」への対応)について

3 不合理な「雇止め」への対応
○確立した判例ルールである「雇止め法理」については、より認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止するため、東芝柳町事件と日立メディコ事件の二つ最高裁判決に基づき、法律に明文化してはどうか。
この場合、パナソニックプラズマディスプレイ事件の最高裁判決が参考になるのではないか。 (配布資料No.1より)

@労働側より、二つの最高裁判決に基づき法律に明文化すべきであり、利用可能期間の年限と密接に関係するが、利用可能期間とは独立して雇止め法理の制定化を考えるべきと主張しました。
A事務局は、雇止め法理を出来るだけ制定法にすることで考えているが、利用可能期間の年数とは関係ない制定化により雇止めに関するトラブルは減少し紛争を予防できるとしました。
B使用側は、論点2が整備されれば必ずしも雇止め法理の制定化はいらなくなるのではないかとし、利用可能期間内でも雇止め法理は効くのかと質問をしました。
C公益側より、利用期間の上限が決まり期間内の更新が繰り返される等あれば、期間内であっても法理が適用されると考えられ、また、契約法17条の関係からも期間が短くなることはなくなるのではないかとの回答がありました。

論点4(「期間の定め」を理由とした不合理な処遇の解消)について

4「期間の定め」を理由とする不合理な処遇の解消
○有期契約労働者の公正な処遇の実現に資するため、有期労働契約の内容である労働条件については、「期間の定め」を理由とする差別的な(不利益な)取扱いと認められるものであってはならないものとしてはどうか。
その場合、差別的な(不利益な)取扱いと認めれるか否かの判断に当たり、職務の内容、配置の変更の範囲等を考慮するものとしてはどうか。
(配布資料No.1より)

@労働側より、「不利益な取り扱いと認められるものではあってはならない」は不利益な取り扱いをしてはならないと同じと考えていいのか、また民事的効力を持つということでいいのかとの質問があり、事務局より、同じと考えてよい、労働契約法に民事的効力を持ったものとして考えているとの返答がありました。
A使用側より、判断要素として、職務内容、配置の変更の範囲等と書いてあるがどの程度まで考えているのかとの質問があり、事務局より、パ−ト労働法第8条の文言を参考程度に有期と無期を比べるときの考慮要素として考えたものとの回答がありました。
B労働側より、パ−ト労働法第8条では0.1%のパート労働者しか差別解消の対象になっていないことを指摘してきたが、今回の差別解消の対象は、論点2の一定の期間までの有期雇用労働者と思われるが、無期同士とかに合理的な比較の基準があるのか、という質問があり、公益側より、無期に転換した場合は論点4は該当しない。労基法第4条の賃金について男女差別を禁止する条項では、どちらか一方に有利な取扱をすることを禁止しているが、有期雇用は不安定雇用であり有利な条件を与えることがあってもよいことになるとの返答がありました。
使用側より、フルタイムの有期無期の格差問題で、通勤手当、教育訓練その他退職金など取り上げたが、通勤手当が対象になるのには懸念がある。

論点5(手続きル−ルの明確化)について

5 その他必要な手続き的ルールの明確化
○労働契約の契約期間に関する変更については、労使の合意によるべきことを明確化してはどうか
○契約更新の判断基準を労働契約の内容として明確化するよう使用者に求めることにしてはどうか。
○「雇止め予告」を法律上の義務とすること及び有期労働契約締結時に「有期労働契約を締結することの理由」を明示させることについては、その必要性が相当程度高いとまではいえないのではないか。
(配布資料No.1より)

労働側より、労使の個別合意とあるが就業規則や労働協約との関係ではどうなるのかとの質問に対し、事務局より労働契約法の中で考えているもので、そのような関係で考えているのではないとし、また、労働協約まで拘束するものではないと答えました。
労働側より、3つ目の○はわかりましたというわけにはいかない。調査でも30日前の予告が6~7割に過ぎない。30日未満が2割~3割、当日が数%となっており、引き続き検討してほしい。また、派遣法とか規制の強化に伴い、労働契約から個人請負に落ちていっている。これをどう防止するのかと質問しました。
会長より、労働者性の問題については、最高裁判決が出ており昭和60年の研究会報告書も出ている、と答えました。
使用側は、このタイミングでここまで議論をやらねばならないのかと考えているとの意見を述べました。

論点6(1回の契約期間の上限)について

6 1回の契約期間の上限
○労働基準法第14条の1回の契約期間の上限については、現行の規制の見直しの必要性の有無について引き続き検討する必要があるのではないか。
(配布資料No.1より)

労働側より労基法第14条の見直しに関連して、第137条が効力を有するとの発言があり、使用側から、第137条の効力についても見直しがされるのかとの質問があり、事務局より14条の見直しをすること及び137条の効力維持に関して説明がなされました。
使用側より、論点2について重ねて検討の継続の要請がありました。

次回は分科会の素案を事務局に用意してもらい、12月19日17時〜。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・8

2011,12,11

労働側「出口規制」に焦点を絞ることを鮮明に!
・・・使用者側「バラ売り」と非難

12月5日夜、11月24日第94回から2週間にもならない夕方から夜(17:45〜20:15)にかけ第95回分科会が開催され、審議は一気に制度化案を策定する「最終局面」へと「突入」しました。
労働側は前回審議会で、入口規制に7項目の除外項目を設けてを無期原則から有期契約大幅容認へと転換してきましたが、本審議会においてはこれまで固持してきた「入口・出口セット論」から「入口」「出口」各論へと転換を鮮明にしました。この労働側の方針転換に使用者側が「入口・出口バラ売り」と「悪態」をついて非難する場面もありました。
分科会会長はかなり強引に論点整理を行い、出口規制(論点2)に議論を絞ろうと労働側の「協力」を得て、本審議会では使用側の「参加」取り付けに最大限尽力した会合となりました。また、会長と労基局局長は来年の通常国会への法案上程を目標に制度化案を仕上げる決意を繰り返し明らかにしました。分科会も、東日本大震災による約2ヶ月の中断もものともせず、いよいよ26日最終回を目指した大詰めを迎えてきました。

分科会には当然有期雇用者の席はありません。肝心の有期雇用労働者の声を一体誰が「代弁」しているというのでしょう。このドタバタを見ると、どのサイドにも利害に基づく思惑が表面に飛び出してきているようで、何とも気がかりというしかありません。

第95回分科会

1、論点4,論点5について

論点4(処遇の均衡)について。事務局より通勤費以外の基本給、退職金での処遇の差は大きく、教育訓練について差は比較的少ないとする調査結果の報告がまずありました。協議に入り、労働側はパート労働法の第8、9条の差別禁止条項の規定が細かすぎたとして、有期については原則的な規定にすべきで、細目は労使の話合いや行政のガイドラインで取り決めるべきとしました。使用側は原則だけでは対応できず困難としました。さらに、事務局に対し、韓国での規定についての質問があり、韓国では「有期雇用であることを理由にした差別を禁止」しているとの説明がありました。
論点5(手続きルールの明確化)について。事務局より資料2で契約期間の設定及び変更、更新基準の明示について説明し、労働側は事務局の提示に賛成、使用者側は必要性がないとしました。

2、前回追加の論点について

前回の審議会で労使双方から追加提示のあった論点について協議が行われました。
1)労働側提示の追加論点
労働側提示@
「雇い止め予告の制度化」については、労働側が大臣告示に30日前の予告を労基法20条のように法制化する必要があるとしたのに対し、使用側は現在の告示による指導の現状で問題ないとしました。
労働側提示A有期契約締結時に「有期労働契約締結することを明示することを使用者に義務づける」ことについては、使用側の論点1(入口規制)とのセットは反対で告示のままでよいとしたのに対し、労働側は大臣告示を厳守する提示にトーンダウンしました。
2)使用側提示の追加論点
@使用側提示@
「多様な正社員」について、労働側は正社員の定義が不明とし格差の拡大も懸念されると主張し、使用側は法的に位置づけるものではなく、有期雇用の選択肢として誘導していくものの一つとして考えているとしました。公益からは個別企業の人事上の問題でもあり労使協議にゆだねるべきではないかという説明がありました。
使用側提示A「労基法14条に1回の契約期間の上限」については、労働側が契約の8,9割は6ヶ月単位という現状で期間を引き上げようという意図が分からないとしたのに対し、使用側は若年や女性、被災地の雇用を長くするべきとし、第14条付則137条の人身拘束禁止条項の見直しも提示しました。さらに第14条は期間1年を上限としているとは必ずしもいえないとしました。公益から2003年の第14条改正の際、細切れ雇用ではなく中長期雇用を目指すという主旨の国会決議がなされ、付則137条は人身拘束禁止と正規労働者の退職のバランスを取ったものと説明がありました。

3、論点1、2について

公益側、論点1(入口規制)論点2(出口規制)について発言
@公益側より、労働側が1、2両方セットとしている点について次の指摘
がありました。入口規制は安定雇用を使わせる、安定雇用に移行させるという効果があるが、長期的に見ると有期雇用を雇いづらいという雇用の縮小効果をもたらす。出口規制は濫用を規制するものであり、機能していけばステップ雇用として安定雇用に移行できる効果が期待できるとしました。
A労働側はこの指摘を重く受け止めるとして、無期雇用の原則は変わらないが、入口出口規制での弊害、メリットデメリットや、出口規制の効果を慎重に見極めて各々検討する。反復更新が繰り返された長期がどうなるか、長期の程度はどうか、無期の原則からかけ離れた長期はない等検討していくとしました。
B使用側は、出口規制は雇止めの予測可能性を補う視点から述べてきたもので、論点案1〜5の規制には反対である。今回なぜ労働側が入口出口セット論をバラ売りに変えたのか分からない、と述べました。

4、会長、局長の態度表明

1)会長より労働側が論点1、2セットではなく、論点2についての議論は可としてきたので使用側に論点2についての協議を促しました。これに対し、使用側は有期を長期に使える仕組みや適用除外についての議論を深めたいとして、ウェルカムかと聞かれればノーであると応対しました。労働側は論点1〜5についてまとめてほしいとし、会長は論点2に絞るものではないとして、今年最終分科会を26日に予定していてそれまで議論を取りまとめるよう努力したいとしました。
2)公益側より基本的な事項については使用側より投げかけられた、クーリング期間の問題とか退職者本人の意志の問題とかあるのではないかと意見があり、使用側は、論点1や2について質問をしても取り上げてもらえないことから今後に疑念があると応答しました。事務局は制度の導入をすべきか含めて労使の意見の整理をしたいとし、会長は論点についても具体的な制度設計をするポイントも議論の中であったので、事務局と会長で整理して検討項目を出して次回から議論したいとしました。
3)さらに使用側より、論点2だけ何故取り上げるのか、労働側の論点1、2のバラ売りの理由も不明との質問があり、会長は論点2だけ取り上げるのではないとしましたが、労働側は追加含めて論点1から5、公益側の意見含めて取り上げてほしいとし、公益の出口規制の効果の説明や有期の規制は社会的実験といういうべきことで結果は分からず悩むところ、我が国と似ている韓国での出口規制の評価や上限規制の雇止めの懸念等もあり、入口出口別々に検討することにしたと答えました。
4)会長より論点1から5まで次回以降26日までに協議をし、次期通常国会を目標に最大限努力をしたいとの表明がありました。これに対し、使用側より今までの議論の結果法が出来るのであって、予定から決まるのでは変ではないかと疑問が出されました。会長は第2ラウンドで法制定を念頭に置いてきたとし労使の尽力を求めましたが、さらに局長から、政府は有期労働契約について法改正も念頭に置いて成長戦略の具体策を検討しており予定への協力をお願いするとの態度表明を行いました。
5)その後も多少のやりとりがありましたが、結局、事務局で論点1〜5、追加の論点、懸念の事項について中立的な立場で労使の意見も聞きながら整理していくとの表明があり、次回はこの整理により、スケジュール感をもって協議するということになりました。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・7

2011,12,4

第93回・94回労働条件分科会、一気に審議最終局面へ

第93回労制審労働条件分科会が11月8日午後1時〜3時、第94回が11月24日午前9時〜12時、厚労省合同庁舎で開かれました。
この両分科会で、一気に審議は「最終局面」へと「突入」してきました。

第93回分科会

10月24日第92回から2週間の11月8日に第93回が突如設定され、まず事務局より、資料1で「有期労働契約の不合理・不適正な利用と認められうるものの例(案)」が、「長期多数にわたって反復更新を続けて単に期間の満了を理由に雇い止めする」等のような極端な事例5点について、資料2で、これに関連する「判例の整理表」で「東芝柳町」「日立メディコ」「龍神タクシー」「亜細亜大学」事件について説明がありました。

また、労働側は次の合理的な理由がある場合には有期労働契約を締結できるとする、@一定の事業の完了に必要な期間を定める場合 A満60歳以上の労働者を新規に雇用する場合、または定年制を採用している企業において定年後も引き続き雇用する場合 B専門的な知識・技能であって、高度なものとして厚生労働大臣が定める基準に合致する専門的な知識・技能を有する労働者との労働契約の場合 C休業中の労働者の業務を補充するために雇用する場合 D業務の一時的な増大に対応するために雇用する場合 E業務の性質上一時的な労働のために雇用する場合 Fこれらに準ずる合理的理由がある場合 の7項目を提案しました。

さらに事務局より、「有期労働契約のあり方に関する論点(案)」として 1、有期労働契約の締結への対応 2、有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応 3、不合理な「雇止め」への対応 4,「期間の定め」を理由とする不合理な処遇の解消 5、その他必要な手続き的ルールの明確化 の5点を今後の議論の方向として提示しました。

これに対し使用側は強く反発し、事務局の提示した「論点案」の「前書き」には使用側の意見が反映されていないとして、このような整理では審議に同調できないとの意見表明が繰り返し出されました。会長からこの「論点案」が全部というわけではないとするコメントがあり、議論の中で「前書き」にとらわれず意見を出すことで、この案の順番で協議をすることを提案し、使用側も一応了承ということになりました。

第94回分科会

第94回も前回からほぼ2週間で急遽設定されました。前回問題となり、協議を拘束しないとした「有期労働契約のあり方に関する論点(案)」にそのまま則った審議が行われ、使用者側が「与党的な」議事の進行に異議を唱える場面もありました。審議の前に事務局より資料1「期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消について」(1通勤手当 2教育訓練 3退職金 4正社員との賃金格差)についての説明がありましたが、これは「論点案」4の内容として提示されたものです。

議事に入り、論点案・1「有期労働契約の締結への対応」(有期契約の入口規制)について、労働側が前回提示の@〜F項目に沿った意見を述べましたが、使用側も一定これに対する質問をしながら、労働側が20年30年先を見越した日本の雇用政策を論じているが、使用側は個々の具体例について述べているとして、明確な態度表明をしませんでした。

論点2「有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応」(有期契約の出口規制)については、労働側は有期雇用期間の上限や更新の上限を超えた場合は契約が無期に転化することをあらためて提示し、かつこの出口規制は入口規制とセットでなければならないとしました。これに対し使用側は出口規制に法的規制は必要がなく反対であるとし、入口規制に関する労働側の「7項目の除外提案」に対しては態度を明確にしませんでした。 また、公益側よりドイツやフランス等のヨーロッパにおける現状について、ドイツでは入口規制から出口規制に傾いているが、規制を緩和して雇用を確保するため雇用の上限を設定する事例がイギリス、スエーデン、オランダ等でも見られる等の発言がありました。

会長から「論点3:判例」について協議を促され、労働側が判例の内容の法制化は紛争の防止になると従来からの主張をしましたが、使用側は、法制化するまでもないとしながら、「予測可能性」の観点から配慮しているとし、さらに2008年リーマンショック以来有期雇用が雇用を活性化してきた日本的雇用システムがあると強調しました。労働側は、2009年のポートフォリオで中間層がふえたことを指摘し、有期雇用ではなく無期雇用が基本となるべきことを主張しました。
また、公益側より、雇用期間が長い有期雇用者など一部の有期雇用については雇い止め無効の法理の適用が多いこと、キャリアアップについても労使間に一定の共通項があるのではないかとし、有期と正規ではない無期の雇用について言及しました。

最後に、「論点4・雇用の均衡」の「さわり」について、資料・1やパート労働法の条文を引き合いにした意見が出されたり、多少の意見交換が行われましたが、さらに事務局が資料を整理して提出することなど、次回ということになりました。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・6

 

第92回労働条件分科会、事務局より「雇用均等法研究会」、
「パート労働法研究会」各報告を紹介し、若干の質疑で終了

第92回労働法制審議会・労働条件分科会が、10月24日午後4時から6時前まで厚労省合同庁舎で開かれました。審議会は、事務局作成の「有期労働契約に関するアンケート調査報告」追加版が報告され、「雇用均等法研究会報告書」と「パート労働法研究会報告書」を続いて紹介し、若干の質疑応答を行って終了となりました。

今回の追加調査では、雇用者が在学中であるかどうかにより数値に変更の是非を問うものでしたが、卒業している有期雇用労働者の年収200万円以下の比率がは72.9%と変わらず、在学中の有期労働者は年収100万円以下が81.3%でさらに劣悪な低収入となっています。法的規制のない有期雇用制度に、どう法的歯止めをかけるかが、審議会の急務であることに何ら変わりはありません。

「雇用形態による均等処遇についての研究会報告書」について

「日本には有期労働契約の均等待遇法制はない」「この分科会で均等待遇も含め昨年より検討を開始」(87p)、という日本の惨状をまず見ておかねばなりません。

EU諸国では「均等待遇原則」「差別的取り扱い禁止原則」が人権保障の基本となっており、性別や人種、思想信条を理由に賃金を含む労働条件について差別することを禁止しています。

この基本原則では、一方が他方を差別し不利に扱うことを禁止していますが、有利に取り扱うことも「逆差別として認めていません。「両面的規制」となっています。

ところが、雇用形態の「均等待遇原則」は、非正規労働者の処遇改善の観点から賃金などの労働条件について、パートや有期契約者派遣等の雇用形態を理由とする不利益取り扱いを禁止しています。これは、正規労働者に較べて非正規労働者を不利に扱うことを禁止し、かつ有利に扱うことを認める片面的規制となっています。

日本で唯一雇用均等を規定している「パート労働法」では、EUのような人権保障としての「均等待遇原則」からの「同一価値労働同一賃金原則」が確立しておらず、不利益取り扱いを禁止する法とはなっていないのです。

「今後のパート労働対策に関する研究会報告書」について

昨年のパート労働者数は1414万人で、その68.3%を女性が占めています。パート労働法8条では正社員との差別的取り扱いを禁止していますが、差別禁止の対象となるパート労働者は、正社員と「職務が同じ」「活用の仕組みが同じ」「契約が無期相当」という厳しい3要件をクリアした、全体の僅か0.1%のパートにすぎません。

EU諸国では「1997年,EUパートタイマー労働指令」に基づき各国内法が整備され、客観的合理的な理由なく、パートタイム労働を理由として比較可能なフルタイム労働者と比べて、使用者はパートタイム労働者に対し、賃金を含む労働条件に関して不利益な取り扱いをしてはならない、とされています。

パート労働者を含む有期労働契約の均等待遇を法制化を検討するのは、この分科会になっています。EU諸国並みの雇用差別を禁止し均等待遇を法制化することこそ、労働条件分科会の急務です。

1200万人を超える年収200万以下の有期雇用労働者の権利と生活を守ろう!

本日の分科会には使用者側の空席が目立ちました。各報告書の内容は、慎重にバランスを取って書かれていますが、EU対象国の雇用差別や雇用均等に関する事例報告は、お粗末な日本の法令が目立ちすぎて、日本の経営にとっては目と耳を塞ぎたくなるもののようです。大詰めに近づいた筈の審議も、ここに来て1200万人の有期雇用労働者の生活と権利をどう守るのかという、労働法制の最も肝心な課題に直面することになりました。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・5

2011,9,30

第91回労働条件分科会
・・・事務局長報告、若干の質疑のみ。

第91回労働法制審議会・労働条件分科会は、9月14日午前10時から12時まで厚労省合同庁舎で開かれました。審議会は、事務局作成の「有期労働契約に関するアンケート調査報告」を事務局長が紹介し、若干の質疑応答で終了となりました。

今回の報告書では、有期雇用労働者の年収200万円以下の比率が57%から74%へ急上昇したとされ、その後新聞報道等でも話題となりました。法的規制のない有期雇用制度がこのような状態をつくり出したのですから、これにどう法的歯止めをかけるかが、この審議会の急務でなければなりません。

今回の「有期労働契約に関するアンケート調査報告」を見ると、この2年間の変化は、

有期雇用の74%が年収200万円以下へ

有期雇用労働者の年収200万円以下が、57.3%から74.0%(100万円以下は40.7%)へ急上昇。有期雇用1700万人の内約1200万人余が年200万円(月収16万余)以下の収入ということになります。これらの労働者は、すでに生活保護の収入レベル(月13.6万円+医療費・保険:単身・東京)以下になっているといわねばなりません。

主な収入は、勤務先から家族の収入・年金へ

主な収入源は、「1ヶ所の勤務先」が71.3から51.4%へ激減し、「家族の収入」が14.5から23.2%へ増加し、「自らの年金」が3.5から11.9%へ急増しています。働ける家族の全員が細切れの勤務先で、細切れの期間働いて、生活を維持しているということになります。

仕事内容や時間が合っていたから選んだ?

有期雇用を選んだ理由に「希望に合っていたから」(32.3→44.0%)というのが、前回と違って「正社員としての働き口がなかったから」(38.7→30.2%)を上回っています。しかし、正社員の口がないため、細切れの働き口を探したというのが実情で、「多様な働き方」のため有期雇用を選んだという話では、全くないというべきでしょう。

正社員との格差は

基本給が「正社員を上回る」ことは皆無(4.3→2.4%)であり、実際に有期雇用は正社員の1/2から1/3の給与水準です。また、有期雇用には賞与や退職金は殆どない(83.9〜67.3%)か、あっても「少ない」(30.7〜65.7%)のです。1200万人の有期雇用労働者が「生活保護レベル」の収入に陥り、その数はますます増加しているということになります。

有期雇用に労働基本権を

今回の調査では東北被災県を含めていないということで、東北被災県を含めるとこのような変化は、更に深刻であるといわねばなりません。
「奴隷労働解放」のため制定された労基法14条を根拠法規とする有期雇用は、1200万の「困窮」労働者をつくり出しました。
「使い勝手のよい」「景気調整弁」として無権利のまま放置されてきた有期雇用に、労働者として保障されるべき基本的な権利を付与することが、今急務なのです。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・4

2011,8,17

第90回労働条件分科会
・・・議論なし、司会(会長)預かりで「審議前半」を終了。

第90回労働法制審議会・労働条件分科会が、7月21日午前10時から12時半過ぎまで厚労省合同庁舎で開かれました。事務局作成の「有期労働契約に関する議論の中間的な整理について」等の準備書面が、各委員宛には予め配布されていたようです。

しかし、審議が始まると、冒頭より、使用者側委員より事務局作成の素案への疑義と不満が噴出し、2時間の予定時間を超えてもこの疑義の発言が相次ぎ、さらに公益側委員からの意見が事務局案に反映されていない等の指摘も出されたり、収拾がつきませんでした。

結局、事務局が汗をかいて労使間を往復して意見を集約することを条件に、司会(会長)への一任ということになり、ようやく会が終了となりました。

審議の模様

*まず、使用者側より事務局素案はどういうものかという質問があり、事務局より夏までに協議の整理をするということで今回はたたき台として素案を分科会に出したものであると答え、会長からも目を通したとの説明がありました。
*使用者側は、素案では各論点は並べてあり、並べるだけかと思ったら大論文となっているとし、さらに労働側・使用者側からの意見は出ているが、公益側からの意見が入っていないと批判が出されました。これに対し、会長から公益側の意見を明確にするのはまだ不要だと考えていると回答がありました。
*労働側は、発言したことが入っていない点もあるが、追加はあるのかとして、まとめはシンプルなものにはならないだろうとしました。使用者側もフルスペックでやるべしとの意見を述べました。
*会長より各論(1、から4)への意見を求められ、労使双方、主として使用側から素案から外されたことがらについて指摘が相次いで出されました。時間内の集約は困難な状況でした。
*素案の各項について意見が出されましたが、結局、労使双方とも再調整やむなし、という中で、事務局から今回で取りまとめをしたいとの意向が強く示され、会長からも、会長への一任取り付けの要請が再々度出され、結局、前記のように事務局による再調整を前提に、会長に一任ということになったわけです。

8月3日、厚労省より
「有期労働契約に関する議論の中間的な整理について」公表される

8月3日、厚労省は「分科会」名で「有期労働契約に関する議論の中間的な整理について」を公表しました。7月21日の分科会審議以来、事務局による労使双方への折衝の結果がここには集約されているようです。
7/21素案と8/3書面を較べてみると、
書面中の全項目数:99、そのうち内容の変更をしてないもの:69、内容が追加されたもの:18、削除されたもの:3、内容の変更を含んだもの:6、全面的に追加されたもの:3 となっています。(8/3書面からみて)
*つまり、全項目数の約70%はそのままで変更されず、変更された大半は労使双方の意見として既に出されたものを部分的に追加変更したものであり、中間的な整理に取り上げられているかどうかさして重要とも思われません。
*全面的に追加された項目は、@2(2)「雇い止め後のクーリング期間の件」、A3(1)「有期雇用の均等・均衡処遇の変更は正社員の処遇にも関係するとするもの」であり、全部削除された項目は、B3(2)「正社員転換に関する実例を挙げた項目」でした。
*@は労使双方の一致した意見で、ABは使用者側の意見により追加または削除されたものです。ここに労使双方の立場が明確になっているといわねばなりません。
*つまり、使用者側は、有期雇用の処遇改善は正社員への処遇の変更(とくに解雇権濫用禁止の扱いの変更する)に狙いを定め、非正規の正規化に難色を示しているということになります。

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・3

2011,7,17

第88・89回労働条件分科会
*パート労働法の「差別構造」を無視し(第88回)
*労基法14条「強制労働禁止」を無批判(第89回)に放置

第88回、第89回労働法制審議会・労働条件分科会が、6月17日、6月27日、立て続けに芝公園の労働委員会会館、霞ヶ関の厚労省庁舎で開かれました。この日程の設定はどう見ても駆け込みで、配布された資料も、両日とも「H23.5.31第87回資料」との日付があり、単に審議日程を消化しているかの如くです。
もし、大震災の関係で日程を調整するのであれば、ただ日程を詰めて予定を消化するだけのやり方では、必ずや禍根を残すものといわねばなりません。正規の議事録も作成されないまま、次々と審議日程だけが入っていくのはいかにも異様という他ありません。
第88回、第89回の審議は次に見るように通り一遍であり、突っ込んだ議論は全くなかったというものでした。有期雇用と無期雇用との均等・均衡をどう図るか(第88回)、奴隷労働禁止の労働基準法第14条を有期雇用に転用したことから生じた問題(第89回)については、一切議論がありませんでした。

いずれの回も、直面する問題は回避され議論の俎上に上がらず

パート労働法における有期・無期差別

*パート労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第8条では、無期契約のパートについてのみ通常の労働者との差別的取扱いを禁止しています。雇用の不安定や労働条件の劣悪さに苦しんでいるのは、特権的なごく一部の無期契約のパートではなく、圧倒的多数の有期契約のパートなのです。

*差別を例外的に禁止しても、決して差別はなくなりはしません。パート労働法の差別条項はここに根本的な問題を持っており、この上にたった差別禁止の具体的な規定は砂上の楼閣というべきです。

*パート労働法の運用に当たり差別禁止に当たる違反例が見当たらないのは当然のことです。ここには意図的な脱法行為があるわけではなく、パートの圧倒的多数である有期契約パートが、このパート法により差別禁止から除外され、排除されていることにその根本原因はあるのです。

*パート労働法第8条第2項では、反復更新され無期契約と同等になった有期契約パートが、特権的な無期パートと同等の待遇を獲得できるとしているに過ぎません。

*この審議会から見たパート労働法の問題点は、パート法に規定する有期契約と無期契約の差別を問題にし、なくしていくということに尽きます。しかし、労使、公益・事務方のいずれからもそのような発言や指摘はありませんでした。何のためにパート審議会から審議を預かったというのでしょうか。

労基法第14条(1回の契約期間の上限)について

*労基法14条は「奴隷労働を禁止する」法律として制定されました。当然契約期間を出来るだけ短くして1年となりました。

*有期雇用が労基法14条を法的な根拠に激しく活用され始めたのは、精々ここ10年来のことです。そして今や、3年〜5年の期限で雇い止め解雇される有期雇用労働者が、元公務員の法人労働者や下請け労働者に頻発しています。

*無期雇用と厳密に差別されたこの有期雇用の労働者は、期間を限定してのみ雇用を保障される、現在の「奴隷労働者」なのです。

*労働契約法17条でいう、有期雇用の期間内雇い止め禁止条項は、使用者にとっては、契約期間を限りなく短くして契約を反復更新することにより、なんなくクリア出来る法令です。

*有期労働契約と無期労働契約の法律上の差別は、無期労働契約が労働契約法16条で解雇権濫用法理が制定され、有期雇用契約では労働契約法17条で期間中途での解雇が禁止されるだけであり、期間終了による雇い止め解雇に対しては、何の規制もないことにあります。有期雇用契約では雇い止め解雇を規制する法律は存在しないのです。

*有期雇用契約が期間終了による雇い止め解雇を、労働契約法16条の解雇権濫用法理をそのまま労働契約法17条にも法制化することにより、現代の奴隷労働である有期契約労働者を差別から解放しなければならないのです。

*労働契約の基本において有期・無期の差別をしないこと、これが有期労働契約の直面する難題を議論する際の出発点でなければなりません。この基本理解を抜きにした有期雇用の法制化はまやかしであり、労働契約法の根本的な欠陥をなくすことには決してなりません。

各回の詳細は次のとおりです。

第88回分科会

1、労働者の「均等待遇、均衡について」規定したパートタイム労働法第8条について、労使双方のやりとりがあった。労働者側が、合理的な理由がない場合に差別的取扱いを禁止するには、行政法であるパート労働法ではなく、労働契約法の中で規定した方がよい、としたのに対して、使用者側は、合理的な理由とは何かと説明を求めた。労働者側は、何が合理的な理由に当たるのかは司法判断によるべきとし、裁判例の積み重ねにより明確になるとした。
2、労働側は、パート労働法第8条が、細かい要件を設けたこともあって実効性のある規定ではなくなっていること、差別的取り扱いがあるかどうかは労働者が立証しなければならないこと等に問題があるとしたが、使用者側は、この分科会でパート労働法の評価について発言することを拒否した。公益側は、パート労働法と有期雇用法制とは重なる部分があるので調整が必要とした。
3、パート労働法が実効性がない規制となっており、裁判例の積み重ねも少ないことから、労働側は、指針やガイドライによって例示していくことを提案したが、使用者側からは明確な対応はなく、公益側は、パート労働法研究会では、パート労働法第8条について、合理的な理由のない差別的取り扱いの禁止規定とすべきとの提案もなされているが、方向性は定まっていない。ガイドラインは一般的には裁判規範とはならず、行政指導に馴染みやすい、とした。
4、正社員(無期)化について制度があっても数が少ないことについて、推進を求める労働側に対して、使用者側は多様な働き方を推進すべきとして、多様な正社員の問題を持ち出して労働側の反発をかった。
以上

第89回分科会

1、有期労働契約の1回の期間の上限について、労働側は労基法14条の人身拘束(奴隷労働)の危険性は未だあるとして、1年経過後の退職の自由を認める付則第137条は残すべきとしたが、使用者側はもはや危険性はないとして削除を主張した。
2、使用側は、人身拘束の危険性について具体的な例を挙げるよう求めたが、労働側は、それには直接答えず、事務局も具体的な例はなく間接的な事例が見られるとした。要するに、労基法14条で規定する有期雇用そのものが現在の奴隷労働であることについて、いずれからも指摘がななかった。
3、最後に、この間の審議を踏まえた中間的整理について次回に協議を行うこと確認された。
以上

厚生労働省・労政審議会での有期雇用法制化を監視しよう・2

2011,6,10

5月31日、第87回審議会・労働条件分科会
東日本大震災対応の報告と有期雇用審議を開始

5月1日、東日本大震災で中断していた労働条件分科会が再開され、会議の冒頭、大震災に当たっての労働基準局の対応について報告がありました。

大震災に対する労働基準局の対応として、労働相談、労災保険、メンタルヘルスを含む健康問題、未払い賃金の立替払い、雇用保険、さらに原発被曝関係の基準値変更等の対応を行ったことが、約20分程説明されました。とりわけ被曝作業時の基準値を大幅に緩和したことについて、被曝基準値を年間100ミリーベルトから250ミリシーベルトに引き上げ、さらに年間50ミリシーベルトの上限を撤廃するが5年間の100ミリシーベルトは維持する省令を告示した。しかしこの措置はこれはあくまでも福島原発事故に限っての特例措置であるとの説明が強調されました。

この基準緩和措置は、原発政策を推進してきた経済産業省からの要請に応えた放射線審議会への諮問によるとの報道もあり、生活環境の基準や労働者の被曝を規制する監督部署としては、基準を緩和した明確な理由と基準変更について厳格な手続きが明らかにされなければなりません。福島原発事故を例外として扱ったとするのであれば、事柄の緊急性重大性を明らかにすることが最低限必要です。また、例外扱いの範囲や時期も明示しなけらばならないでしょう。

労働法以外の法令で規制される自衛隊や消防職員等の応急時の作業ではなく、労働法で直接拘束される通常の被曝労働に伴う被曝基準については、厳格な法令の適用がなされねばなりません。さらに被曝作業の緊急時と通常時の作業に伴う健康を等しく防御する措置を保障するのが、担当官庁としての基準局の重大な役目です。緊急時を年間250ミリシーベルトに緩和した直後に、通常時の年間50ミリシーベルトの上限を撤廃した省令は、緊急時と通常時の壁をなくし、さらに過酷な被曝労働を容認したものといわれても仕方ありません。

すでに5年間で100ミリシーベルト以下の被曝で死亡し労災認定された(1994年労災認定浜岡原発で8年間で50ミリシーベルトの被曝、2004年労災認定福島原発等で4年余で70ミリシーベルトの被曝)例をみるまでもなく、今回の被曝基準の緩和は甚だ大きな疑問がある措置であるといわねばなりません。福島原発をはじめ全国の原子力施設での被曝労働が非正規の有期雇用契約の労働者によって担われていることは周知の事実です。被曝労働の問題は有期雇用の問題でもあるのです。

労働条件分科会の主宰者である労働基準局は、被曝基準値の緩和が被曝労働を担う有期雇用労働者の労働条件の悪化に直結することがないよう、厳密な指導監督の役割を果たすべきです。
この労働条件分科会では、「有期雇用」を「雇用の例外」として扱うか否かが最大の争点です。
福島原発の被曝作業を特例として扱う労基署の姿勢が、この分科会においても常時問われ続けるといわねばなりません。

第87回分科会の審議状況は次の通りです

1、審議の前に事務局より年度変わりによる分科会メンバーの一部交替が紹介され、審議会令に従った分科会会長の選任了承が行われました。再任された会長から代理の指名がなされ、引き続き夏頃までに中間答申を出したい旨の挨拶がありました。

2、次に有期雇用契約について実質審議に入り、まず事務局より配布した資料の説明がありました。これまでの審議で話題となった@有期雇用が不安定な雇用であり本来無期雇用が原則であり例外的な場合にのみ認められるとする労働側の意見、使用者側のA多様な雇用形態として有効に機能しており失業を抑制しているという意見が紹介されました。今後有期労働契約をめぐる問題の解決のため、B雇用継続の予測可能性が必要、C有効な運用のための適正な利用の確立が必要等の意見が集約的なものとして紹介され、今回から次回にかけては「契約の締結事由や更新回数・利用可能期間」について審議することとなりました。

3、民法629条「雇用の更新推定、いわゆる黙示の更新」について、法制審議会民法部会において、この件の取り扱いは労働条件分科会に任されることになったとの紹介と確認がなされました。民法の審議会においては、民法第629条第1項の「同一の条件」に、期間の定めが含まれるかという点について、含まれる、含まれないの両説があり、裁判所の判例も分かれているとの報告がありましたが、この問題は労働政策上の課題であり、労働関係法規の形成過程の検討も必要であろうという指摘がなされました。公益委員から両説の立場から一部踏み込んだ意見が出されましたが、本格的な協議はこれからということとなりました。

4、「有期労働契約の締結及び雇止めに関する基準」について、事務局より企業での実態調査とその結果を踏まえると、6〜9割の事業所において既に実施・定着しているとの報告がなされました。この「基準」の法制化について、使用者側はこれだけ定着しているのだから立法化することはないとし、労働側は逆に定着しているのだから立法化しても何ら問題はないとしました。

5、契約期間を超えた雇用については、無期の契約になるとする労働側に対して、使用者側はその場合でも有期契約の身分が継続されるのみとしました。雇止めによる生活保障的なものとして何らかの手当相当が必要であるという提起が労使双方から出され、手当を給付しているフランスの例等を調べてさらに検討することになりました。また、教育研修の保証についても指摘がありました。

6「基準」等で雇用契約締結に際し、労働条件の明示が必要であることにも関連して、労働側が、有期雇用の契約締結に際しては合理的な理由が必要であることを表明しましたが、これに対し使用者側は、このような説明は初めてであり「脊髄が拒否する」と答えました。

7、最後に、今後の審議日程について分科会会長より、今後毎月1回程度審議を行い夏頃には中間答申を予定し、年内に取りまとめて建議の方針でいきたいとの表明がありましたが、労働側より審議不十分なまま結論を急がないよう意見表明がなされました。

8、さらに震災に関する対応について、労災保険の遺族補償給付について質問があり、震災行方不明者は申請後3ヶ月で死亡と推定し速やかに給付できるようにしたとの返答がありました。また、原発事故での放射線被曝の基準値を上げたのは、あくまで今回の事故での特例であることが誤って伝わっているので訂正したいとの所轄基準局としての見解が再度示されました。
震災復興に当たって労働条件に関する法令を無視することがないよう、とりわけ変形労働制の活用等を図る際の注意点を指摘し、対応施策に当たっての局の姿勢の表明がされました。
一般に例外は例外として厳しく適用を限らねばなりません。福島原発事故の対処には、10年以上の作業を必要とするといわれており、例外扱いが許されるものではありません。例外とした内容を厳密に限定し、適応の内容については最低限、「合理的で社会通念上容認される」ものであるかどうかを明確にしなければならないでしょう。

今回の分科会において、民法の雇用に関する条項について審議することが明確になりました。
私達は、有期雇用契約に関わる民法626条について、年季奉公等の「奴隷労働からの解放」として、労働基準法14条の制定に関連したことを確認してきました。
しかし、2000年代に入って公務員組織で進められた民営化・独立行政法人化のなかで、「 民法626条」と 「教員等の任期に関する法」をそのまま適用したと思われる、「更新上限」付きの有期雇用職員が大量に導入されました。今回、労基法14条は、有期雇用内部に「期限付きの奴隷労働」の存在を合法化する法に変貌させられようとしているのです。
私達は、昨年の有期労働契約研究会の報告書についてもこの観点から批判してきました。この報告書をもとに、労働条件分科会においていよいよこの問題が審議されようとしています。今や法人等職員の半数が更新期限付き有期雇用契約であり、3年もしくは5年の更新期限で一斉に雇止め解雇されています。
有期雇用への「更新上限」設定に強く反対することを表明するとともに、ここにその内容を再録するものです

有期雇用「●年条項」(更新の上限設定)の廃棄を!

1、有期雇用労働契約研究会報告の役割

2010年9月、厚生労働省の有期労働契約研究会から最終報告書が出された。しかし、この報告書では日本の有期雇用制度の是非については全く触れず、有期雇用の有効な活用を図る観点から記載されている。非正規雇用の全労働者に占める割合が1/3を超え半分に迫ろうかという状況で、非正規雇用の緊急の課題である「有期雇用の無期(期間の定めのない)雇用化」をどうするかという、有期雇用の根本的な問題を抜きにしてこの問題を云々することはできないはずである。ILO国際条約にも謳われ、国際常識ともいうべきこの雇用原則について関与しないこの研究報告書は、その基本姿勢が問われるといわねばならない。
さらにこの報告書では、冒頭から民法626条を引用して有期契約の5年後の契約解除に言及し、あたかも有期雇用の契約期限を5年とすることの根拠を与えようとしている。これは明らかに、現在有期雇用労働者が、「更新の上限」契約により、雇い止め解雇に晒されて苦しむ現状を、さらに正当化するものといわねばならない。

2、日本の有期雇用を唯一規定する労基法14条は、「年季奉公強制禁止」の法

明治時代以前から日本に存在した丁稚奉公ともいわれる年季奉公制では、親方と丁稚の関係は身分的なものであり、親方の恣意的な判断で奴隷的身分から解放されていた。
明治時代の民法626条ではこの雇用関係を5年の期間で解除できるとしたが、5年間の年期奉公を法で裏付けたものでもある。
戦後の労基法14条はこの年季奉公を「1年」経過後には解除できるとする「年季奉公を禁止する法」であった。しかし、経済の高度成長期を通じて外注下請化を遂行した経営側は、直接雇用の原則を「間接雇用」に切り替えることに成功し、下請企業では雇用の大部分は有期雇用契約に切り替えられ、雇用の「有期化」が進められた。
ここに至って労基法14条は、有期雇用の法的裏付けを与えるものとして「活用」され、有期雇用労働者は、無期雇用に保障された権利から排除され、無期との絶対的差別の状態に放置されることとなったのである。労基法14条は1998年には雇用期間を1年、特例を3年に、2004年にはさらに特例5年まで緩和された。このようななし崩し的な有期雇用の改訂は、無期雇用に保障された労働者の基本的な権利を剥奪する雇用契約として、差別に苦しむ有期雇用労働者に追い打ちをかけるものであった。
日本の雇用について看過してならないのは、職業安定法(1947年制定)32条で有料職業紹介を禁止していたにもかかわらず、1985年派遣法制定に伴いこれを覆して許可制にし、直接雇用の原則を間接雇用容認へと変更したことである。この雇用原則の変更はその後の有期雇用の増大に直結しているといわねばならない。

3、有期雇用を更に差別・分断する「更新の上限」=「●年条項」

2008年パート法が改訂され、その目玉として正社員との差別禁止がうたわれた。しかし、この対象となるパート労働者は全体の数%といわれる職務が正社員と同じで無期雇用契約の労働者に限られ、パート労働者の中に差別の構造を秘かに持ち込んだのである。今回の有期労働契約研究会の報告書は、このパート法改定の先例を踏まえ、更新期限の上限の設定により、有期雇用労働者の中に新たな差別構造を持ち込むことを狙っているといわねばならない
労基法14条は差別された有期雇用労働者を生み出す根拠法規となったが、さらに「更新の上限」を持つ労働者を有期雇用内部に想定してはいない。14条は1回の契約期限を定めているだけで、契約更新を繰り返した場合の更新回数・期間の上限を定めてはいないのである。「働き続ける権利=生きる権利」を予め限定するようなことは現在の法はしていないのだ。
▼ 全国の国立大学法人で雇用されている時間雇用職員は、就業規則で「●年上限規定」(「短期の雇用更新を繰り返した場合の、期間の上限設定は●年を超えない」)を規定している。この規定は大学が恣意的に決めた法的根拠を持たない悪質な規定である。労基法14条を逸脱し違反したこの上限規定は、法で定めた基準に達しない契約(就業規則も含む)として労基法13条により無効とされねばならないだろう。
2004年の労基法改定は契約期間の上限を通常3年、特例5年としたもので、何ら更新の上限を定めたものではない。法を逸脱し大学法人が恣意的に規則を定めることは労基法上許されないことは明確である。

4、「更新の上限」を法制化しようと画策する厚労省「有期労働契約研究会」の報告書

研究会報告書では、現法制下で「更新上限」を設定する脱法行為が多発していることを指摘している。そしてその脱法行為を防止するのではなく、それを容認する「更新上限」を設定するルール化・法制化を、民法626条を引き合いに出しながら提案しているのである。そこでは、あたかもルール違反に対しては、無期契約化や解雇権法理の適用を提起し、有期雇用の規制をはかるかのように装われている。しかし、無期雇用原則のない法律の枠内で、上限設定を定め例外としての措置として無期化を導入しても、現に横行している更新上限を理由とした期間内の解雇=雇止めを促進するだけであろう。
既に官民を問わず、雇用更新の上限を労基法14条を無視して就業規則や雇用契約に導入し、更新上限で解雇する労務の運用が罷り通っている現状で、この更新上限の法制化の意味するところは重大である。これはまさに、有期雇用を唯一規制している労基法14条が、年季奉公禁止どころか、逆に、更新期限内のもの言わぬ従順な労働者囲い込みを保障することを意味する。年季奉公は別名奴隷労働とも評されるが、更新上限持ちの有期雇用者は、まさに「現代の奴隷労働」を法的にも強要されることになる。奴隷労働解放の由来の法が泣くというものだ。

5、「民法626条」と「任期法」を動員した労基法違反を許さず闘おう

有期雇用の内部に差別構造を持ち込む企みが、労基法違反を承知の上で「●年更新期限」を設定する脱法行為として、なし崩しに強行されてきた。かくて、雇用する使用者が更新時にその可否の絶対的な権限を獲得することにより、有期雇用者を再び奴隷労働に突き落としてきたのである。
更新上限の規定がない現労基法14条に対し、5年期限で解雇を可とする民法626条を持ち込み置き換えることが企まれている。さらに大学等に対し1998年、3〜5年を任用期間とする「教員等の任期に関する法」が制定され、2004年には大学等の法人化に際し労基法14条の雇用期間の上限を特例5年に延長して整合させた。労基法14条は今や民法626条とともに任期法に挟み撃ちされ、換骨奪胎されている。
奴隷労働からの解放を目的とした労基法14条を、新たな奴隷労働というべき有期雇用法令に変貌させるために、民法626条と任期法が動員されたのである。今、この攻撃は国公・地公、又はその民営化した法人に集中している。京都大学ユニオンエクスタシーをはじめ全国でこの攻撃への闘いが始まっている。これに支援し連帯する闘いが求められている。

***平成18年12月18日  京都労働局 労働基準部監督課***

労基法14条は「予め長期間にわたって労働者を拘束することとなる有期雇用契約」を規制するものであり、有期雇用契約の繰り返しにより結果として発生した長期雇用を制限するものではありません。従って、例えば半年間の有期雇用契約を6回更新し、通算雇用期間が3年間を超えた場合についても労基法14条には抵触しません。

***(佐賀大学、有期雇用契約の上限「3年期限」撤廃の新聞報道)***

佐賀大非常勤職員 3年雇用制全廃へ
佐賀大学(長谷川照学長)は非常勤職員の待遇改善策として新年度から、3年までとしてきた契約期間の上限を全廃する方針を決めた。非正規労働者の雇い止めが社会問題化し、財務状況の厳しさから契約を更新しない大学も増えているが、佐賀大は「人材活用を優先したい」として一律的な3年雇用をやめる。全廃は九州・沖縄の国立大学法人では初めてという。

同大人事課によると、職員約2250人のうち、非常勤や医療系契約職員は約390人。2004年の法人化で契約期間上限を3年としたが、薬剤師や診療放射線技師など専門性が高く、有資格者の補充が難しいケースは特例的に延長してきた。

そうしたコメディカル分野に限らず、事務・技術系の人材も確保する狙いがあり、就業規則を見直す。各職場の雇用計画で柔軟に期間を設定。毎年の契約更新は必要だが、上限は撤廃するため、5年にわたるプロジェクト型研究での雇用継続も可能になる。 (2009,2,17 佐賀新聞)

(これまでの労政審労働条件分科会の審議経過)

1、10月26日の審議(第82回)

1)審議日程について
分科会会長(座長)より、夏頃には中間的な整理をし今年12月頃に取りまとめを行い建議をする方針が出された。これに対し労働者委員は柔軟な日程を要望した。
2)事務局から資料(研究会報告書のポイント)が提出され意見交換。
新谷労働者委員より、労働法には固有のプロセスがあり、それを踏まえて議論を進めて欲しい。田中使用者委員よりグローバルな市場競争の現状で、諸外国での雇用政策を踏まえた議論をすべきとの意見が出された。

2、11月29日の審議(第83回)

1)事務局から45分間資料説明がなされた。座長は本日から総論部分の意見交換に入るとし1時間程度協議が行われた。
2)意見交換
座長より、意見の一致点と相違点の整理をつけていく方向で協議し、論点を整理していくと表明。労働者側より、全労働者数5500万人のうち非正規労働者が1700万に達している雇用状況から、集計方法等は実態に近い数の提示を要望があった。また、アンケートの結果から4割が安定的就労を希望していることを指摘し、高齢者雇用安定法、パート、労働者契約法などの各法律の書き直しなどの事態が生じうるとした。使用者側は、この「マトリックス」は難しいとした。

3、2月3日の審議(第84回)

1)事務局より、資料(有期雇用の現状等に関する資料、H23年実態調査実施概要)を提出して説明を行った。
2)連合からの資料を提出され説明があったが、事務局資料をもとにした協議が主であった。
使用者側は、有期雇用は良好な雇用形態として活用されている、通常は雇い止めを考えているわけではないが非常事態の際に雇用調整できるのでなくすことは出来ない、等々強硬な解釈と主張がなされた。また、正職の労働者も全国共通型と地域限定型に区別されるなど「多様な職種」があるとして、処遇に差別を持ち込むことと連動して有期雇用への扱いにも差別を盛り込もうとする考えが展開された。
労働者側は、中小企業中心に有期雇用が蔓延していること、更新を繰り返しても雇用が安定しているわけではない、中途で正職になる率は低いが正職化は拡大の必要がある、と主張した。また、正職の中への差別持ち込みには反論があったが、有期雇用への差別には明確な反論がなされず、正職への転換を促進することを要請しているとも受け取られ、懸念される。

4、2月23日の審議(第85回)

1)事務局より、資料(有期契約の締結及び終了関係について)を説明し、有期労働契約の各論の議論を行った。この議論の後、事務局は法制審議会において進められている民法(債権法)改正について、有期労働契約に関わる個所を中心に、資料W「民法(債権法)の見直しについて」に沿って説明した。
2)使用者側が、有期雇用契約労働者が契約を更新して長期間働いている例が多々存在するのは、雇用関係が安定している証拠であると主張したのに対して、労働側は、2010年集約で日本の労働者の34.3%を有期契約労働者が占めるが、その有期契約労働者が雇止めの不安を持って働いている現状は安定した雇用ということは出来ない。雇用は無期、期間の定めのない雇用を原則とすべきであると反論した。
また、労働者側は、無期と有期雇用の違いは使用者に労働者をやめさせる自由があるかどうかである、合理的な理由がある場合を除いて雇用は無期であるべきだと主張した。これに対し、使用者側は有期契約締結を厳しく制限してきたドイツやイギリスの最近の事例では、雇用の硬直化を招いて緩和されてきているとしたが、労働者側は実態と異なると反駁した。
経営側は正規労働者と非正規労働者はコインの裏表であるとして、有期契約の規制を強くすれば正規雇用の解雇規制の見直しが必要となると主張したが、労働側は正規正規雇用の解雇規制の検討をここに持ち込むことに強く疑義を唱えた。

5、3月8日の審議(第86回)

1)事務局が、雇止め法理に関連して、資料「有期労働契約の雇止めに関する裁判例の傾向」について説明した。前回に引き続き「有期労働契約に係る検討の論点(契約の締結及び終了関係)」について協議。
2)協議内容
@有期労働契約の締結事由について
*使用者側より、前回の議論で労働者側は締結事由の規制を導入すべきとしたが具体的な中身についての言及がなかったとの発言があった。
*これに関し労働者側より、有期労働契約の締結には、期間の定めをする合理的な理由を必要とすべきである。その内容は、この分科会の中で今後議論させていただく。また、合理的な理由なく締結された有期労働契約は、期間の定めのない労働契約とみなす民事効も必要であると考える、と応答があった。
A有期労働契約の更新回数・利用可能期間について
*労働者側より、有期労働契約の入り口規制も必要だが、一定限度の期間・更新回数も必要であり、その限度を超えた有期労働契約については、期間の定めのない雇用とするべきと考えるとの意見が出された。
*使用者側は、企業の経営環境の変化という観点からさらに働き続けてほしい人への対応ができない点で更新回数・利用可能期間の規制には賛成できない。規制により継続的な職業訓練の機会も得にくくなるのではないか、と批判した。
*労働者側より事務局に対し、資料によると「労使当事者にとっての雇用継続等に係る予測可能性を高めていく必要」とあるが、ここでいう「予測可能性」とは具体的には何を意味するのかという質問がなされ、事務局より、労働者は次の契約のときまで契約終了か継続かわからず不安な状態におかれる。継続か終了かが事前にわかれば「予測可能性」があるといえるのではないか、と答えたが、分科会長は、使用者側からみると、何らかの基準があり紛争にならかならないかが予めわかれば「予測可能性」があるということになるのではないかと補足した。また、公益側は「予測可能性」を高めることは、紛争を回避できるというプラスの側面と、更新規制が明確であるため、雇止めを誘発するというマイナス面があると発言した。
*労働者側より、資料に「有期労働契約をどの程度まで反復するかについては、労使の話し合いに委ねることが適当」とあるが、ここでの「労使」は何かと質問、事務局は、労働組合を念頭においているが、それ以外のバリエーションもあると思っていると回答した。
B雇止め法理について
*使用者側は、出口規制である雇止め法理は判例法理として確立している、ルール化する必要性は理解するとしながら、公益側が諸外国の出口規制では無期化という効果を伴うが、日本の雇止め法理では無効となった場合の効果が同一期間で更新にとどまる点で、諸外国の出口規制とは異なると指摘したのに対して、判例法理を成文化からさらに無期化の効果を入れることは違和感があるとした。
*労働者側が、東芝柳町工場事件最高裁判決や日立メディコ事件最高裁判決の時代からみると、有期労働契約の実態には変化が生じているのではないか、判例のどちらの方により重みがあるのかと質問したのに対し、分科会長は下級審においては、労働者側はそれぞれの判例を援用し主張を展開しているが、東芝柳町工場事件判決に合うケースは実務上少なくなっており、日立メディコ事件判決が使われるケースの方が多い。現実的にはどちらも定着していると言えるのではないかと答えた。
C契約締結時の手続きに関連する課題について
*使用者側は、期間の定めのある労働契約はその期間が満了すれば契約が終了するのが通常ではないか、大臣告示の雇止めに関する基準はすでに定着しているとした。
*労働者側は、大臣告示は法的な義務ではなく、労働条件が不明確なまま非正規労働者を就労させている事案が多いことを指摘し、期間の定めのある労働契約は締結時には、有期労働契約を締結する合理的理由を明示させるべきである。更新しない理由の明示も義務づけるべきであると主張した。
D有期労働契約の終了に関連する課題について
労働者側は、雇止めの予告や雇止めの理由の明示は使用者側にとって紛争回避となり、労働者側にも予測可能性という点でメリットがある。また、雇用変動リスクを全て労働者側が負担していることを考えると、契約終了時に手当を出すなどリスクとリターンを均衡させる必要があるとした。

京大ユニオンエクスタシー、雇止め撤回裁判
大阪高裁不当判決を糾弾する!

控訴審大阪高裁不当判決を徹底糾弾する。

大阪高裁は、京都地裁の昨年3月不当判決に引き続き、11月さらなる不当判決を下した。京都地裁がユニオンエクスタシー当該労働者の従事してきた労働を、「家計補助的」労働と決めつけ、さらに「学歴の高い者のする仕事ではない」と許し難い差別判決を下したが、大阪高裁がこれに加えて、ユニオンエクスタシーの闘いを「労働者の争議行為ではない」として、まっ向から否定し去ったことは到底容認することは出来ない。

ユニオンの仲間は、大学図書館の中心的重要業務である検索情報システムの構築・遡及入力を長期にわたって担い、更新5年を眼前にして雇い止め解雇された。「遡及入力業務」は、国立情報学研究所を統括機関とする「国家的・全国的プロジェクト」として第T期(2004年度〜2009年度)、第U期(2010年度〜)と継続した長期計画であったにもかかわらず、京都大学は「細切れの仕事」に描き出し、部局予算によりその都度左右される「短期の業務」に見せかけようと腐心してきた。大阪高裁はこの京大当局の策略を追認し、追随して、不当な差別判決を下したのである。

京都大学は2004年非特定独立法人として国営から民営化された。この時以降4000名にのぼる雇用上限付き有期労働者(有期パート)が導入されたが、民営化以前から雇用されていたパート労働者は上限設定されないまま多数残った。業務を短期的臨時的に見せかけ、細切れ期間を設定して長期勤続の「期待」を無きものにしようとも、有期パート発足当初より無期パートが存在してきた事実を覆い隠すことは出来ない。大学有期パート職員の「合理的な更新期待」を否定してみせる大学と裁判所は、無期パート労働者の口を塞ぎ、有期パートの目を懸命に覆い隠したのだ。

不当労働行為、争議行為弾圧を正当化する高裁判決を糾弾し、
さらなる闘いへ

京都大学本部役員は、2009年1月新聞紙上で「非常勤職員の業務は臨時的で補助的。雇用期間の上限は採用時に個別に伝えておりトラブルにはならない」と宣言した。これに対し、1月27日ユニオンの仲間は本部に対する抗議行動を行ったが、2月初農学研究科は雇止め解雇を通告してきた。2月20日、ユニオンはこの攻撃に対しストライキを通告をすると共に時計台前での座り込み・テント闘争に突入した。京大当局は「ユニオンは争議権なし」「集会は職務規定に違反」として、ユニオンの一切の争議権を否定したばかりでなく、団交をも拒否する許し難い不当労働行為に終始したのである。

民営化により職員には労働三権が発生すると喧伝しながら、ユニオンエクスタシーの団交を拒否し座り込みテント闘争を「争議権なし」と決めつけた京都大学の行為は、労働者の基本的権利を踏みにじる不当労働行為以外の何者でもない。「有期契約更新上限の撤廃」の要求は、有期パート労働者の当然の要求であり、要求拒否に対するユニオンのストライキ権の行使は正当な争議行為そのものである。雇い止め解雇撤回の正当な当該労働者含めた要求は、いうまでもなく労働者としての基本的な必死の要求である。この要求を勝ち取るための座り込み闘争は、選択の余地のない就労闘争として、まさに基本的な争議権の発動といわねばならない。
大阪高裁民事13部は「労働」法の番人から、徹頭徹尾不当労働行為に終始した京都大学本部を容認正当化し、「労働者法不在大学」の番人になり果てたといわねばならない。

私たちは、これらの不当判決・弾圧を跳ね返し、ユニオンエクスタシーに連帯しさらなる闘いへと歩を進めるものである。

東大職連